魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2024年1月19日
Column #085

深海の“紅”はズワイの代用にあらず

近年、評価が急上昇している紅ズワイガニ

わが国に産ずる高級なカニといえば、日本海の至宝、ズワイガニをはじめ、北海の横綱タラバガニ、浅海の王者ガザミなど、いずれも、その味、その姿、庶民の憧れを集めて輝くカニたちだが、その陰に、いくつかの実力者が控えている。その筆頭が紅ズワイガニだ。形を見ると、あれ?ズワイガニそっくりじゃないかと思いきや、次の瞬間、茹(ゆ)でていないのに赤いなあとくる。これが、〝紅〟たるゆえんだ。

ズワイの水深200メートル前後に対し、400~1000メートルに至る深海に群れて棲(す)んでいる。従って、漁師は網で獲(と)ることはかなわず、大きなカゴに餌を入れてカニが入るのを待つ作戦だ。島根の隠岐諸島から北海道にかけての日本海全域、太平洋では福島沖の一部に漁場があり、ズワイより大量に獲れ、鳥取の境港、兵庫の香住、新潟の佐渡、秋田、北海道などでは、2カ月間の禁漁期を除いて通年、お手頃に手に入るカニとしてブランド化もしている。

実はこのカニとは、付き合いの歴史が浅い。昭和25年頃、富山の深海のズワイより深い場所で赤いカニが発見されたのに始まり、その後、船が大型化して、ひたすら沖の深い海を開拓した結果、大量にいることが分かった次第なのだ。当時は、色がどぎつい、身が細くて水っぽい、泥臭いだとか何かとズワイと比較され、今でも大部分が加工品にされているのだが、身入りが良いA級品は近年評価が急上昇。ズワイの3分の1の値段で、肉質は甘くみずみずしく、カニミソは濃厚。一晩活(い)かせば、棲家の泥臭さも抜けて、ズワイとはまた別次元の紅ズワイにしか出せない味わいを醸し出す唯一無二のカニであることが、じわじわと浸透している。

このカニを絶やさないようにと、かつて共に資源管理に頑張った漁師たちの顔が浮かび、まことにしみじみと喜ばしく思えてならない。ぜひ産地に出かけて3杯ほども独り占めして堪能してみてほしい。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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