名店 新宿割烹 中嶋 魚好きうならす一期一会の味

東京・新宿に魚好きが集まる名店あり―。「新宿割烹(かっぽう) 中嶋」は高級店がずらりと並ぶ「ミシュランガイド」の常連店ながら、ランチタイムには千円でおつりが来るイワシの定食も出す。国内はもとより、海外からも美食家が足を運ぶ。(榊聡美)

◆魯山人の教え

「カマスの酒焼きです。カマスは秋から冬にかけてがおいしい時期。お酒に合うように塩を気持ちキツめにして日本酒をかけ、アルコール分を飛ばしながら焼きました。スダチをぎゅっと搾ってどうぞ」
カウンターの向こうから身を乗り出しながら、店主の中嶋貞治さん(60)が説明をする。よどみのない口調に誘われ、ひと口目の期待が高まる。
料理の基本は季節を押さえること。そして素材を生かし、余計な手はかけないこと―。その考えは、「美と食の巨人」と呼ばれた北大路魯山人の右腕として活躍した祖父譲り。
祖父の中嶋貞治郎さんは、魯山人が東京に開いた「星岡茶寮」の初代料理長を務めた。父、貞三さんが独立して昭和37年、新宿に店を構えたが49歳の若さで他界。大学を中退して包丁を握り、修業を重ねた後、2代目店主となった。
祖父が創案した料理を継承する傍ら、絶えず独自の味も追求している。時には生クリームやバルサミコ酢など洋の食材を合わせて、和食の新しいおいしさを生み出す。


◆手間惜しまず
「日本は魚の種類が豊富な魚大国。こんなに魚のうまい国は他にない」と言い切る。中でも全国各地から新鮮な海産物が集まるのが東京だ。「築地は究極の産直。おいしい魚は東京に集まるので、お客さんもそれを求めてうちに来ますね」
期待に応えるための手間は惜しまない。白身魚はお客の予約時間から逆算して生け締めにし、冷蔵庫で寝かせる。熟成を待ってうまみが増した状態で供する。さらに、同じ魚でも「走り(初物)」「旬」「名残」で料理法を変える。
〝一期一会の味〟が目当てのリピーターは、魚に一家言持つ人が少なくない。「螢川」などで知られる芥川賞作家の宮本輝さんもその一人だ。
「輝さんはおいしいものを知っているし、食の知識も豊富だから厳しい。ハモの棒ずしにちりめんじゃこなんか挟むと『こういうのが邪道なんや』と叱られます」
◆イワシ定食も
魚は和食の大きな柱であるにもかかわらず、日本人の「魚離れ」が叫ばれて久しい。自ら「魚好きの応援団」と称し、さまざまな取り組みにも力を入れる。
ランチタイムには、大衆魚のイワシを刺し身やフライにした、リーズナブルな定食を販売。連日、行列ができるほどの人気ぶりだ。
一方、学校の給食で腕を振るうことも。これは、会長を務めるシェフの団体「超人シェフ倶楽部」が、全国の学校に出向いて調理を行う、食育推進プロジェクトの一つだ。
17日から東京で行われる、「ジャパン・フィッシャーマンズ・フェスティバル」では、同倶楽部のブースで「つみれ汁」などの特別メニューを提供。アイデアに富んだ魚介料理の全国ナンバーワンを決める「Fish―1グランプリ」で審査委員長も務める。
「魚の多彩な魅力を目と舌で感じてほしいですね」

■新宿割烹 中嶋
東京都新宿区新宿3のの5、日原ビル地下1階、☎03・3356・4534。昼は午前11時半~午後2時、夜は午後5時半~9時半。日曜・祝日休み。昼の定食「いわし彩々」は800円~、夜のコースは8640円~(サービス料別)。
(2016年11月13日 産経新聞)