御宿・伊勢エビ

御宿・伊勢エビ 凝縮された磯の香り堪能

長いひげや腰が曲がった見た目から、長寿のシンボルとして祝いの席に欠かせないエビ。中でも高級食材として知られる伊勢エビは、〝エビの王様〟ともいわれる。8月の盆明けから月半ば頃までが伊勢エビ漁の最盛期。日本有数の水揚げ量を誇る千葉県御宿(おんじゅく)町を訪ねた。(中井なつみ)



◆早朝が勝負
「しけの後は海流が激しくなるから、伊勢エビが特にたくさん取れる」
台風9号が通過した後の8月下旬の早朝、房総半島の東に位置する千葉県御宿町。童謡「月の沙漠」ゆかりの地として知られるこの町で年以上、伊勢エビ漁に携わる埋田勝弘さん()は、伊勢エビがかかった網を手にこう話す。
御宿町では、刺し網漁法で伊勢エビ漁を行っている。夜行性の伊勢エビを狙い、夕方に複数の漁船で網を仕掛け、夜明けに一斉に引き上げる。仕掛ける場所の選定には、漁師の経験と勘がものを言う。
漁を終えると港に戻り、待ち構えていた家族らも総出で網からエビを外す作業に取りかかる。
「ここは時間との勝負。太陽が昇ると、エビがどんどん弱って、味が落ちちゃうから」
足が折れてしまったり、動きが悪くなってしまったりしたものは出荷できない。漁師たちは素早く、かつ丁寧に作業を進める。
御宿岩和田漁港ではこの日、約800㌔の伊勢エビが水揚げされた。御宿岩和田漁業協同組合の吉野郁夫参事によると、海水温が低くなると伊勢エビの活動量が減るため、「8~9月に一番いいのが取れる」
◆全国屈指の産地
「伊勢」の名称通り、漁獲量が最も多いのは伊勢湾に面する三重県だが、農林水産省の統計では、平成年の千葉県の漁獲量は三重県(264㌧)に次ぐ2位の259㌧。
外房の海底には、伊勢エビの餌となる貝類がたくさん生息する岩礁地帯が広がっており、色鮮やかで身の締まった伊勢エビが育ちやすい環境なのだ。同県では、御宿町、いすみ市、勝浦市で取れた伊勢エビを「外房イセエビ」としてブランド認定し、特産品として全国にPRしている。
◆食べ応えが魅力
海岸の白浜が美しい御宿。特に夏場には、取れたての伊勢エビをふんだんに使った魚介料理を楽しみに、遠くから訪れる観光客も多い。
地元の旅館「大野荘」の大野吉弘社長(52)は、「漁場に恵まれた御宿の伊勢エビは、ぷりぷりとした甘い身とボリューム感が魅力」と太鼓判を押す。しっかりとした素材の味を堪能するため、シンプルな塩ゆでで食べるのがお薦め。甘辛いしょうゆを付けながら焼く「鬼殻焼き」も、香ばしいしょうゆの香りが伊勢エビの甘さとマッチして人気だという。
眼前に開ける海の風景と潮風。凝縮された磯の香りが全身で感じられる。

■「伊勢えび祭り」に4万人

ブランド価値が高い伊勢エビは、御宿町の重要な観光資源だ。毎年9~10月の2カ月間、「伊勢えび祭り」を開催。地元の飲食店や旅館がオリジナル料理を振る舞うほか、土日祝日には伊勢エビの直売も行う。期間中の来場者は約4万人に上る。
9月11日と10月2日には特別イベントを開催予定。伊勢エビ汁の無料配布や伊勢エビのつかみ捕りなどが行われる。問い合わせは同町観光協会☎0470・68・2414

(2016年9月4日 産経新聞)