魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2026年9月11日
Column #117

東の釣り人はため息、西の食通は舌鼓 外道と王道の狭間で泳ぐ「キュウセン」の魅力

9本線の模様からその名がついたとされる「キュウセン」

9本線の模様からその名がついたとされる「キュウセン」

キュウセンとは「九線」、体に9本線の模様があるのでこの名がついたらしい。してその魚とは、いわゆる〝ベラ〟の仲間なのです。釣り人がシロギスなどを狙うたびに釣れてきて、気分が萎える税金のような魚。ぬるぬるの体表に大きなウロコと派手な色、小さい口で餌を盗んでいく憎い奴。九州から本州まで棲(す)んでおり、おおむね食えんとの悪評だが、どっこい、愛してやまない地域がある。

伊勢湾から西の瀬戸内海地方、特に本場は兵庫の二見(ふたみ)だ。この魚を嫌うどころか、これを釣るために船を仕立て、ご当地でギザミと呼ぶキュウセン釣りに興じるだけでなく、店に並べばこの小さな魚が1尾800円もすることがあるという。つまり昔から〝外道〟と呼び捨てられる本命以外も、ところ変われば〝王道〟なのだ。

この魚の味は、時を越えて強く記憶に残っている。阪神淡路に地震が起こる前年の9月残暑の候(こう)、仲間と二見沖にこの魚を釣りに出かけ、その場でおろしたそぎ身を氷水に放ち〝洗い〟とした。青ざめたように透き通る純白の身のひと切れの、イセエビのように弾(はじ)ける強さと甘さに目を瞠(みは)った。

キュウセンは性転換する魚だ。小さい頃はほとんどがメスで、肌色の体に9本の線が走り〝赤ベラ〟と呼ぶ。成長するとオスとなり、顔に歌舞伎役者のような模様が浮き、うぐいす色の体表に黒い帯で、〝青ベラ〟と呼ばれるようになる。それぞれに料理も値段も違い、昔、洗いにしたのは青ベラであった。

キュウセンは白身にして滋味。上品の極みという言葉がピタリとはまる。刺し身や天ぷらはウロコをとるが、実はウロコがうまい魚でもある。ウロコのままこんがり焼けば風味がよいが、これを甘酢に漬けるのもいい。東二見港の「近藤丸」の船長に教わった〝頭粗(あたまあら)のおすまし〟など、ひと口吸えば料亭の味だ。海も変わり、少なくなったとはいえ、キュウセンは元気に泳いでいる。30余年前の味の記憶はいまも変わらない。あの震災とともに、私たちは、このような味と釣りを忘れてはいけない。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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