鹿児島県阿久根市から空輸された新鮮な魚が並ぶ「サカナヤマルカマ」
一般の方から「魚の目利きを知りたい」との声が多いが、これは魚屋とて失敗を重ねて熟練する世界。一応の目安はあるが、口頭の説明ではピンとこない。どーする母ちゃん?!
魚屋のタイプはいろいろだ。玉石混交を安売りして残りは廃棄する店。魚は良いが昨日の売れ残りもそのまま売る店。良い魚を当日に売り切り残りは総菜や干物などにする店。店頭売りはせず御用聞きして売れる分だけを仕入れて納める店。とまあ、いろいろであるが、昔から「魚屋の棚は店主の人格」といわれる通り、仕入れる魚、売る姿勢、並べ方にさえ、如実に表れてしまう。だからこそ素人が魚を見るよりも、魚屋を観察したほうが早いよと申し上げる。
噓がないか。買わぬ人にも差別なく接しているか。客の相談を満たす知識と技術があるか。そして3回ほど買ってみてまちがいなくおいしかったなら、そこはあなたの常店となる。
そんな要件を徹底して目指す魚屋が4月、神奈川県の鎌倉市今泉台に生まれた。事は鹿児島で有数の美しい海をもつ阿久根市の、都会で魚を売って地域を伝えたいとの要望から始まった。そこで魚を求め、食に関心の高い住民の多い鎌倉の地に白羽の矢が立ち、今泉台地域の自治会、阿久根市と鎌倉市の行政、魚屋や飲食経験者などが集まり、そこに私がアドバイザーとして加わり、魚の協同販売所「サカナヤマルカマ」が生まれた。初期費用はクラウドファンディングで集め、地域の要望でできた店だから客が魚屋を支えている。総菜として無駄なく魚を生かすので廃棄はない。下処理を徹底しているので微塵(みじん)の臭みも感じさせない。食べ方や味を伝えて要望に応じた処理もするので見知らぬ魚もちゃんと売れる。空輸なので少しお値段高めであるが、それを補って余りある魅力を備えている。
振り返ればこの店に、魚売りのあるべき姿を見出(みいだ)すことができる。魚は人が人へとつないでゆく命のバトン。魚屋はその伝え人。人の目利きに魚屋へ、みなさんいらっしゃい。
ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。