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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2019年10月25日
Column #001

食文化守る「香箱ガニ」の漁期

新たに連載を担当する金沢の「日本料理 銭屋」の主人、髙木慎一朗です。自らの店で腕をふるうほか、農林水産省の「日本食普及の親善大使」も務め、ニューヨーク、パリ、ドバイなど世界各国で和食、そして地元、金沢の魅力を広めようと日々努めています。

金沢は今、「香箱(こうばこ)ガニ」の漁解禁を指折り数えて待つ時期に当たります。みなさんもよくご存じのズワイガニのメスを香箱ガニと呼びます。オスに比べて甲羅が小さく、値段も手ごろなうえ、全く違う味わいが楽しめます。

例年のカニ漁解禁日の翌日となる11月7日には、地元の台所といわれる近江町市場に沢山(たくさん)の市民が訪れ、「今夜はこれを肴(さかな)に一杯」とばかりに買っていきます。カニは鮮度が落ちやすいため、店では仕入れてからすぐに茹(ゆ)で、その味と品質を安定させます。お客さまにはカニの身をまずはそのまま召し上がって頂いてから、スダチをほんの1、2滴垂らすと素材の味が引き立つとお伝えしています。

漁期は11月から12月末までの2カ月弱しかありません。石川県の人々はその短い漁期を受け入れ、自然を尊重する考えが定着しています。それは生態系を持続させることで、独自の食文化を育んでいこうという思いと意思があるからです。

金沢は海と山の幸が豊富で、茶道や伝統工芸などの食と文化に関する歴史があります。「美食の街」ともいえる地で生まれ育った敬意や感謝を込め、それを後世に伝えなくてはならないという「使命感」をもって日々努めています。

しかし、食材がなくなれば、伝統の料理や技法を維持するのも難しくなります。香箱ガニのように漁期を短くするなどの工夫を施し、食文化と環境の持続可能性(サステナビリティー)に貢献する方法を、この連載を通じて皆様と一緒に考えていきたいと思っています。タイトルの「伝導」には、熱伝導によって起きる化学反応のようなイノベーションを和食の世界で起こしていきたいとの思いを込めました。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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