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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2021年3月5日
Column #018

「自然と共生」イワナ釣りが原体験

「自然との共生」の原体験となったイワナ

ようやく春の到来が実感できるようになってきました。金沢市内を流れる犀川や浅野川沿いを歩いていても、まだ冷たい風の中に何かぬくもりを感じるのは、気のせいではないでしょう。川を流れる水もまだしびれるような冷たさですが、3月1日には石川県内の渓流釣りが解禁になりました。これもまた春を感じさせる節目です。

子供の頃、しばしば犀川へ釣りに出かけていましたが、思い出に残っているのは、中学3年になる春、解禁直後に行ったときのことです。解禁日になるや否やまだ夜も明けぬ早朝に仲間たちと一緒に自転車で犀川の上流を目指して、釣竿を担いで一生懸命にこいでいきました。途中で自転車を置いて、まだ雪が残る川沿いの険しい山道をハアハアと登って、ようやくたどり着いた最上流に絶好の釣りポイントはありました。

川淵には所々まだ薄氷が張っていましたが、30分もすると友人たちは次々と良い型のイワナを釣り上げ始めました。もちろん私も彼らに続くべく、黙々と釣竿を振っておりましたが、一向にアタリはきませんでした。日が昇ってきて、そろそろ帰ろうかと話し始めた直後、ようやく待望のアタリがきたのです。ただ、釣り上げたのは手のひらサイズの小さなイワナでした。仲間たちが釣り上げたそれらと比べると見劣りはしますが、何とも言えない満足感に浸りました。

そこでようやくわれに返り、周囲を眺めることができたのです。普段、過ごしている街中とは全く違う空気や美しい木々、水がそこにありました。その澄んだ空気と躍動感あふれる川の流れは、今もはっきりと覚えています。料理人を目指すはるか前のことですが、私たちが自然と共生しているという感覚を覚えた原体験といえます。その恵みを最大限に生かしている日本料理に携わるいまも、その感覚を大切にしていきたいと思っています。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。

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