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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2021年2月5日
Column #017

冬を味わい春を感じる日本料理の真骨頂

鰤の照り焼きと蕗の薹白扇揚げ

暦の上では立春を過ぎましたが、金沢はまだ春の到来を感じるには至りません。街中に雪はほとんどありませんが、30分ほど車で山の方に走ると真っ白な雪景色に変わります。日本海に面した金沢の港では相変わらず、肌を突き刺すような風に身体(からだ)の芯から震えさせられます。海山はいまだにそんな様子ですから、地物の春食材の到来はまだしばらく先です。

しかし、近江町市場に行けば、県外から集まってきた山菜がすでに並んでいます。日本料理屋では常に旬を基本に献立を考えます。食べながらにして、その季節を五感で味わっていただくことが日本料理の魅力の一つですから、献立を考えるときは、頭の中で「今一番おいしいものは?」と、ずっと自問自答しているような感じです。同時に、新しい季節の到来を感じさせることもまた日本料理の得意技といえます。

例えば、まだ雪に覆われた寒い金沢の道を歩いて銭屋までたどり着き、カニや鰤(ぶり)など旬の料理で一献という場面で、雪に覆われ春を待つ蕗(ふき)の薹(とう)の姿を思わせる「蕗の薹白扇揚げ」を一品に添えたりします。そうすると、「おお、もう蕗の薹か」とつぶやいたりするお客さまはかなり多いものです。冬の食材を味わいながら、同時に春の到来を感じる。これこそが季節の移ろいを表現する日本料理の真骨頂といえるのではないでしょうか。

私が修業させていただいた日本料理店「吉兆」の創業者、湯木貞一氏の持論は「食の基本と最高の料理は家庭にある」というものでした。「家庭における毎日の食事時が、料理を理解するための基礎知識や経験を得る絶好の場面であり、飽きずに毎日食べられる食事こそが最高の料理だ」と貞一翁は言いたかったのだと思います。旬を五感で味わう日本料理の真(しん)髄(ずい)は、毎日何げなく食べている家庭料理にあると、改めて思います。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。

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