魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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2020年9月17日
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日本初! 釣った魚を地域通貨で買い取り地元を楽しむ軍資金に「ツッテ西伊豆」スタート

初心者向けのレンタル・レクチャープランでも、こんなに大きな真鯛が釣れた

魚種やお店によって調理法は様々。お子さんの食育にもぴったりだ

観光客が釣った魚を地元だけで使える“地域通貨”で買い取ってくれる。そんなユニークな取り組み「ツッテ西伊豆」が9月8日、静岡県西伊豆町でスタートした。同町が運営する産地直売所「はんばた市場」に釣った魚を持ち込むと、同町が発行する電子地域通貨「サンセットコイン」で買い取ってくれる。通貨を使用できるのは、飲食店や土産物店のほか、宿泊施設や温泉施設、ガソリンスタンドなど約130店舗。観光客は魚を釣るほどに町で遊べる軍資金が手に入る。自治体が主導し地域通貨で買い取るのは、日本初の試みだ。

この企画を担当した釣りアンバサダーの中川めぐみさんは「釣りを、釣るだけで終わるのではなく、『釣って食べる』『釣って出会う』『釣って学ぶ』など地域の魅力を楽しめる入り口にしたくて、ツッテと名付けた」と語る。

8月下旬、同町まちづくり課の松浦城太郎さんと中川さんが、予行練習として自ら「ツッテ西伊豆」を体験した。

手ぶらの初心者でも大物ゲット!

ツッテ西伊豆は、何はともあれ魚を釣るところから始まる。買い取りの対象になるのは提携している釣り船で釣った魚。これは品質管理を徹底するためだ。現在の提携船は4隻。この日は仁科港の釣り船、龍海丸に乗り込んだ。

釣りといえば竿やリールなど道具を用意しなくてはならないイメージがあるが、ツッテ西伊豆の提携船には初心者向けの「ファミリープラン」があり、手ぶらでチャレンジすることができる。釣り方もレクチャーしてもらえるので、子供や女性など釣りに縁遠かった人でも安心だ。

今回も道具はすべてレンタル。「汚れたり濡れたりしても大丈夫な服装と、日焼け、船酔い対策をすれば大丈夫。足元に海水が流れるので、スニーカーより滑りにくいサンダルや長靴がおすすめです」と、中川さん。他には手が汚れたり傷ついたりしないように薄手のゴム手袋や軍手があると安心だという。水分補給のためドリンク類も忘れずに。船には個室トイレも設置されている。

ファミリープランの所要時間は約4時間。この日は早朝6時に出港したが、お昼の便もあるそうだ。西伊豆町の近海は豊富な水産資源に恵まれており、港を出てすぐの場所でも様々な魚が狙える。8月下旬はアジやイサキがメインターゲットで、港からわずか10分の場所で釣り始めた。船が停まると、船員さんが実演しながらレクチャーをしてくれる。ファミリープランで使うエサは基本的にオキアミ(小さなエビ)で、苦手な人も多い虫でないところが嬉しい。

釣り方はシンプルで、船長が「水深何メートル」と指示してくれる通りに餌のついた針を海中へ沈め、糸を巻いたり、沈めたりと簡単なアクションを繰り返す。数分ごとに、餌を付けたり撒いたり…。想像していたよりも忙しく、「じっと竿先を見ているだけで退屈」とはならない。また、世界ジオパークに認定されている西伊豆はとにかく絶景の宝庫で、船からの景色は見ていて飽きることがない。陸からの景色も良いが、せっかくなら、釣りの合間に海上からの絶景も存分に味わってほしい。

そうこうしているうちに、中川さんの竿が細かく上下した。「魚だ!ゆっくり糸を巻き上げて」。船員さんに言われて慎重に糸を巻いていくと、しばらくして水面に茶色い影が浮かび上がった。「イサキだ。美味しそう!」と目を輝かせる中川さん。「この子、いくらになりますか?」と中川さんが訪ねると、買い取り作業にも携わる松浦さんが「今だと1キロで800円くらい。そのイサキなら300グラムはありそうなので、250円くらいですね」と答える。「もう2、3匹釣ればランチ代になるぞ」と、企画者である中川さんも楽しそうだ。「企画者が仕事を忘れて楽しんじゃうくらいの方が、お客さまにも満足していただけると思うんです」と、釣りを続けた。

その後もイサキやアジを軽快に釣り上げていく2人。そうして1時間ほど経った時、松浦さんの竿がグググッと大きくしなった。船員さんと中川さんがタモを持って駆け寄る。松浦さんが重そうな糸をゆっくり巻き上げていくと、今度は水面に赤い魚影が浮かび上がった。慎重にタモですくいあげた魚の正体は、なんと真鯛。「すごい!大きい」「これは良い価格がつきそう!」と皆が喜ぶ。それぞれが別の竿を持ちながらも、一体感を持って喜びを分かち合える…。これもまた釣りの魅力なのだろう。ちなみに真鯛はこの日で1キロ1,500円。松浦さんの釣り上げた真鯛は2キロ近くあったので、これだけで約3,000円になる。

釣りを始めて3時間半ほど。釣った魚を活きたまま保管するコンテナが賑やかになり、そろそろ帰ろうかと話していた時、中川さんの竿が大きくしなった。なんと最後に、またしても真鯛がかかったのだ。「やった~!」「全部でいくらになるか楽しみですね!」と、どこまでも楽しそうな企画者たち。この楽しさを多くの観光客に体験してもらいたい。釣った魚は船員さんに指導してもらいながら血抜きなど「締め」の処理をし、乗船証明書をもらって、「西伊豆堂ヶ島産地直売所はんばた市場」に持ち込む。

「魚払い」で食べて、買って、温泉まで

今年5月にオープンした「はんばた市場」には、西伊豆町の海・山の幸、地域のお母さんたちが調理したお惣菜やお菓子が並ぶ。買い物を楽しむのも魅力的だが、今回は釣った魚を買い取ってもらうのが目的だ。買い取り価格は、魚種やサイズ、市場価値などを加味して算定される。この日は松浦さん、中川さんの2人分を合わせて、なんと6,500円ほどの値が付いた。価格に納得したら、「サンセットコイン」をもらい、軍資金を手に町へ遊びに行こう。今年5月に発行が始まった「サンセットコイン」は、同町が夕陽の名所として「夕陽日本一宣言」を出していることにちなんで命名された。単位は「ユーヒ」で、1ユーヒ=1円。専用のカードか、スマートフォンのアプリにチャージして利用する。「アプリならサンセットコインの使える店舗情報も確認できるので便利ですよ。」と松浦さんが教えてくれた。

ちなみに釣った魚は、提携の飲食店や宿へ持ち込んで食べることも可能だ。この日も真鯛を1匹、「磯割烹 佳倉」で調理してもらった。「とびきり新鮮なのはもちろんですが、自分が釣った魚だと思うといっそう美味しく感じるんです」そう話す中川さんは、目を細めながら釣ったばかりの真鯛を堪能した。刺身はぷりぷり、煮付けはふっくら、塩焼きはジューシーで、驚くほどに美味しかった。支払いはもちろん、サンセットコイン。

食後のデザートに喫茶店でパフェを食べ、お土産に西伊豆の郷土食「しおかつお」を購入し、更には絶景の露天温泉まで堪能。いずれも支払いは釣った魚と交換したサンセットコインだ。釣りは釣ること自体が十分楽しいアクティビティなのに、それを満喫するほどに軍資金が増えて、地元を満喫できる。

「観光客の激減」「漁師不足」深刻な課題を楽しく解決!

とにかく楽しい「ツッテ西伊豆」だが、松浦さんによると、背景には同町が抱える課題があった。西伊豆はもともと観光と漁業で栄えた地域だ。しかし、少子高齢化が進み、現役の漁師の数が減少。町の大切な資金源である漁獲量も減少の一途をたどっている。さらに新型コロナウイルス感染症の影響で観光客が激減した。

この2つの課題を同時に解決する一つの策として、観光客に楽しんでもらいながら、市場で販売する魚を確保し、地域通貨を使ってもらうことで地元も潤う「ツッテ西伊豆」を企画したのだという。もちろんこの企画だけで町の課題をすべて解決するのは難しい。漁業の担い手育成など長期的な解決策にも取り組んでいるそうだ。話題性のある「ツッテ西伊豆」の取り組みを通じて西伊豆町に注目が集まり、地域振興に関わる人が増えることは、町にとって大きな意味がある。松浦さんは、「観光客向けのライトな釣りから、熟練の釣り人向けには大物釣り、深海魚釣りなど様々なプランを用意しています。多くの方に西伊豆の海も町も満喫していただけるよう、今後も釣りを切り口にしたコンテンツをどんどん企画していきます!」と意気込みを語ってくれた。

2020年9月 静岡県西伊豆町役場/ツッテ調べ

提供:静岡県西伊豆町役場

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