「桜鱒(さくらます)」がおいしい季節になりました。桜の季節に日本海で獲(と)れる本鱒は、身がピンク色をして美しく、日本の春を代表する桜にたとえて桜鱒と呼ばれています。本鱒というと川に生息するイメージですが、サケ目サケ科に属する魚です。9~12月に生まれた卵は川底で冬を越し、翌年の春に孵化(ふか)します。稚魚は1、2年を川の上流で過ごし、その後、海へ下るものと、川に残るものに分かれます。海へ下るものが桜鱒で、海で栄養をとり、60cm前後に大きく成長し故郷の川に帰ります。川に残るものが「山女(やまめ)」と呼ばれ、体長は20㎝ほどです。
もともとは同じなのに、海と川それぞれの育った環境で、成長した姿はまったく違ったものになります。なんとも不思議というか、人間には計り知ることのできない大自然や生態系のロマンを感じますね。
秋に出回る「秋鮭(あきさけ)」は、白鮭(しろさけ)という種類で、産卵の時期に故郷の川に戻って来るものを日本近海で秋に捕まえるので「秋鮭」というわけです。春から初夏にかけて沿岸で獲れる若い白鮭を「時知らず」、またの名を「時鮭(ときしらず)」と言います。名前からも、その時期にしか獲れない貴重な価値のある魚だということがよく分かります。
鮭はお弁当や朝食など日常の食卓になじみの深い魚です。切り身に加工され、一年中鮮魚売り場で見かける食材なので、普段あまり種類の違いを意識して買うことはないかもしれません。品名も鮭、サーモン、サーモントラウトとさまざまあって、和風と洋風のいろいろな呼び方をされています。鮭は主に国産、サーモンは輸入品、トラウトサーモンは海で養殖したものに付けられる名称です。
身近な食材だからこそ、その背景を知ってから手にとって選ぶことで、その価値は高まり、ありがたさも増します。ぜひこの春は、いつもの見慣れた鮭の切り身でも、その背景には、雄大な自然に育まれ私たちの元へたどり着いた季節の味であることを感じながら、売り場を探求してみてください。
見慣れた鮭の切り身だが、その背景にはロマンが
食育専門家。「美味しく楽しく 笑顔は食卓から」をコンセプトに、食の専門知識を生かし水産庁の各種委員や調理師専門学校講師を務めるほか、本の執筆やTVコメンテーターとして各メディアで活動。食育セミナーや食を通じた地域活性化にも精力的に取り組んでいる。著書に「浜田峰子のらくらく料理塾」など。