初めてレシピ通り作って感動した「鯛のカルパッチョ」
朝ごはんは出社した机の上。夕食はすべて外食か弁当。土日も働き、帰宅は毎日終電。キッチンでラーメンや冷凍チャーハンは作るが、料理に興味はなかった。これが、子供が生まれるまでの私。
平成15年に長女が生まれて生活が一変。赤ちゃんがいると気軽に外食ができない。おのずと家で食べるようになる。そんな時、1冊の料理本を手に入れて初めてレシピ通り食材を買って作ってみた。食べた自分が驚いた。「おいしい!」まさにレストランの味だ。設計図通り作れば、初心者でも料理ができる。
この経験がきかっけで毎週末、料理を作り始める。レシピ本持参で買い物。イタリアン、中華、エスニックと次々に挑戦。食材の値段も気にせずカゴに入れ、たっぷり時間をかけて調理する。時には午前0時を回ってデザートを出すぐらいのめり込んだ。
自分が楽しいからと始めた料理。油をたっぷり使い、道具を出しっぱなしのまま酔って寝るを繰り返した。洗い物はいつも妻任せ。次第に妻は私が作る料理を歓迎しなくなる。家族に喜ばれると思って作った料理は、自分が食べたいものを自分の都合で作る趣味料理だったと、何年もたってようやく気付いた。
その反省から、家族のための料理作りが始まる。大切なのは自分の腹具合ではなく、妻や子供のおなかが減ったことに気付いて作る父親の家庭料理だ。相手の体調を気遣う料理は体にも優しい。洗い物は当然。ゴミの分別からゴミ捨てまでやって料理。作りっぱなしは調理でしかない。
共働き世帯が多くなった今、男性の家事参画が叫ばれている。「食べることは生きること」は、「食べるものを作ることは誰かを生かすこと」だ。父親が、家族軸で料理をすることでの気付きは多い。誰かのために作る料理は「思いやり」が大切だから。
そんな父親を増やしたくて、9年前にパパ料理研究家として独立起業し、お父さんたちに「パパ料理」を伝えている。
今、一番大切にしていることは、1回でも多く家族で食卓を囲むこと。朝昼晩の1日3回。1年間で約1000回。回数の積み重ねの先に、子供たちの笑顔が増える。そう信じて今日もパパ料理を作る。
パパ料理研究家。昭和45年生まれ、京都府出身。立命館大卒。平成21年、ビストロパパ代表。26年、日本パパ料理協会設立、会長飯士就任。28年、農林水産省食育推進会議専門委員。SAKANA&JAPAN PROJECT(推進協議会・産経新聞社など)の一環で、父親を魚食推進の担い手に任命する「パパさかな大使」の代表を務める。