魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2025年7月18日
Column #103

不漁が伝わるスルメイカ 無きを嘆かず有るを見よ 「天下の総菜イカ」の有難さを大切に

このところ不漁が続くスルメイカ

このところ、スルメイカが不漁との報道が相次いでいる。あまた多くのイカあれど、わが国にとってこのスルメイカほど、幾百年もの長きにわたり全国の暮らしに愛されているイカは、ほかにあるまい。夏と冬の群れがおり、肝が太れば塩辛に、煮物やフライで定番のおかずに、結局、通年どこかでちゃんと獲れてくれる、天下の総菜イカなのである。

そもそもイカは魚のような骨もウロコも持たず、より水に近い生き物であるがゆえに調理の五法にあまねく寄り添う優等な水産物であるが、逆に保存性が弱い。そこでこれを塩して堅く干したのがいわゆる「鯣(スルメ)」であって、旨味(うまみ)凝縮、保存抜群にて、内陸部に海の味をもたらしてきただけでなく、かつては国際交易の主要品目にもなっていた。

もともと「スルメ」とは、イカタコ類を干したものの総称であるが、全国年中獲れて最も多いこのイカが、もっぱら干されてスルメイカの名を頂戴したというわけでもある。

そのスルメが、減っていると騒がれだしたのは10年前。それまでの増減とは明らかに違う急速な漁獲減少は、日本海全域、石川県の小木や北海道の函館、三陸地方など、このイカを命綱としてきた地域にとって人生を分かつ深刻な問題ともなっている。活路はあるのだろうか。獲り過ぎだと規制をかけても、スルメイカは戻ってこない。水温の上昇、潮流の乱れ、陸地からの栄養不足、海の酸性化、イカを食う魚に偏った資源保護、近隣国との漁獲競合など、今、このイカにとって増える要素はあまりにもなさすぎる。

とはいえ、今年は日本海の各所でまとまった漁があったし、太平洋では6月に、若い“麦イカ”の到来もあった。つまり。無いところには無いが、有るところには有る。人間だけでなく自然の営みも相まって減ったものを、人間の都合に合わぬと嘆いても致し方ない。いま有るものに目を向けて最大限に生かし生死を繰り返してきたのが、有史縄文以来の人間の姿ではなかったろうか。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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