魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年12月21日
Column #023

身の厚み増し正月迎えるアカガレイ

兵庫のアカガレイ(全国漁業協同組合連合会提供)

かつて、山陰は鳥取県の西端、境港(さかいみなと)という漁港に暮らしたことがある。減りゆく魚資源を回復させる計画を、漁師とともに作り、動かしていくのが任務であったが、何よりも魅了されたのは港に揚がる魚たちだった。日本海西部最大の水揚げ港である境港は外洋から沿岸、汽水(きすい)や湖で働く大小さまざまな規模の漁業を抱え、北のニシンやタラ、南のヒラマサやイサキまで、まさに南北の魚たちが一堂に会する百貨店のような海であって、魚っ食いの者にとっては、毎日が祭りのように幸せであった。

季節によって目まぐるしく移り変わる魚の中で、常に顔を見せていた魚のひとつがアカガレイである。境港で獲(と)れるカレイ類は多く20種を超えるが、干物にされるソウハチおよびヒレグロと並び、いわば山陰カレイ御三家のひとつと言ってよい。ただし他の2種と違い、干物ではなく料理の幅が広い。特に年末の寒さが増すほどに脂を乗せ、メスは腹に巨大な卵を蓄え、しかるに年越しに食べる“年取り魚”としての存在も大きい。

他のカレイに比べて大きく育ち、どっしりと身を肥やすアカガレイは東北の正月魚であるナメタガレイと並んで西の横綱と呼びたいところ。皮目にじっとりとコクのある脂気があるので、薄塩を当ててしばらく置いて焼いただけで旨(うま)さに驚く。煮付けもいい。酒蒸しもいい。肉が厚いから揚げてもボリューム十分。そればかりかオスの肝を甘辛く煮つけたものなど、酒も飯もスイスイ消える。

しかし、なんといっても心に残るのは、新鮮な寒のアカガレイの身を細く切り、塩茹(しおゆで)にしてほぐした卵をたっぷりまぶした当地の伝統「アカガレイの子まぶり」だ。身の甘味に卵の粒のコクと小気味よさが混ざり、正月らしい晴れ晴れしい気持ちとなる。

アカガレイ、赤くないじゃないかということなかれ。裏をひっくり返してみなさい。網で擦れた腹はちゃんと紅白に赤いのですよ。めでたいねえ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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