魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2020年9月25日
Column #045

巨体をもって旬を運ぶ海の肉

鹿児島県の「秋太郎」(バショウカジキ)=全国漁業協同組合連合会提供

「スーパーに売っていますねカジキマグロ!」なんて言うけれど、そんな魚はいないのですよ。肉質は似ているとはいえマグロはマグロ、カジキはカジキ。「梶木」と書く。してその仲間は食卓になじみのあるメカジキやマカジキを筆頭にクロ、シロ、バショウ、フウライの6種。

その姿は雄々しくも異形。その昔、海の世界が未知に満ちていた時代、書物のカジキは、おどろしい怪物のような存在として描かれていた。杉の大木のような体躯(たいく)は数百キロまで育ち、上アゴすなわち“吻(ふん)”は硬く太く、鋭く尖(とが)って長い。餌の群れに豪速で突入するやいなや、この吻で獲物をぶっ叩(たた)き、殺したところを飲み込んでしまう。

気性も荒く、何にでも突進していくあたり、よほどこの吻の強さに自信をもっているとみえる。その力、ちょっとした船の胴体などブスリと貫いてしまうこと、「カジキ通し」という言葉で今に伝わる。

というわけだから、サメはもとより、海の覇者と呼ばれるシャチでさえ、突き刺されてはかなわないのでちょっかいを出さぬ。つまり実質海の帝王は、カジキ様といえよう。ところがどっこい、人間は知恵で勝負だ。遠洋でマグロを獲(と)るはえ縄、大きな迷路のような定置網、水面で休憩している奴(やつ)を船の舳先(へさき)から銛(もり)で突いてしまう「突きん棒」という漁もある。

秋風吹けばカジキが旨(うま)い。脂の乗ったマカジキは枯れた風合いのオレンジ色で高級握り鮨(すし)にもなり、白身のメカジキはじっとり脂が差してくる。定置に入るバショウカジキは別名「秋太郎」、これまた季節の味覚。一年中暖かい海にいるクロは総菜の味方。シロはめったに獲れないけれど、驚愕(きょうがく)の旨さである。

巨体をひっさげて、カジキたちは自ら海の旬を運んでくる。刺し身やステーキ、フライ、天ぷら、煮つけ、巨大なだけに楽しみ方は無尽蔵。なれば以後、尊敬の念を込めて「かじき」と呼んでいただきたい。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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