魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2020年11月20日
Column #047

ふり向けば、いつもそこに甘海老

新潟県の「南蛮エビ」(全国漁業協同組合連合会提供)

アマエビの本名はホッコクアカエビであるが、その味わい甘美にて「甘海老」と書く。深紅の体の頭をもぎり、殻をむいて口に入れると、確かに噛(か)んだとたんにモッチリまとわりつく魚介特有の甘味が舌を満たす。このクセになる甘さと鮮やかな赤色が刺し身や鮨(すし)を彩ることから、昨今、特に重宝されているエビのひとつである。

しかし、今でこそ北海道から沖縄まで酒場の刺し盛りや旅先の海鮮丼、スーパーの握り鮨に至るまで、お約束のように添えられているが、かつてはそれほど知られてはいなかった。初めて口にしたのは小学生の折、エビがかくも甘いとはこれ如何(いか)にと目をみはったのがおよそ50年前。当時はかなり珍しかったが、その後、冷凍流通技術の発達とともにその販路を爆発的に拡大し今や全土に及んでいるというわけだ。

その震源地はどこか。豊饒(ほうじょう)の海、日本海の深海である。福井から新潟、北海道沖にかけて、餌を入れたカゴや底引き網で漁獲されるこのエビは、地域の食文化として、たとえば新潟では唐辛子になぞらえてナンバンエビと呼び、庶民の家庭で山盛りで食うのだそうな。それを聞いて産地に飛んで、獲れたてのアマエビを食ったらさぞ旨かろうと目論んでも、実は獲れたてのは甘くない。深海性のエビ類はその肉に自己消化酵素を多く含んでおり、死後それが急速に働くので甘味が出る。であるからして獲れたては時期尚早、冷やしつつ甘くなるのを今かと待たねばならぬ。

ところが、熟成が進んで甘くなったアマエビの肉は、加熱すると弾力を失い、その食感に失望することにもなるのである。天は二物を与えない。その点、ブロック型に冷凍された最近のアマエビはありがたい。流水解凍してすぐは茹でたり焼いたりして食い、一晩寝かせてむいたなら、ワサビ醤油で甘くトロリと味わう。残りの頭は味噌汁にして優しくコク深く、裏切ることのない冬の安心なのだ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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