魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2021年9月3日
Column #057

コロナ禍中、魚や食を動画で届ける

自宅のキッチンスタジオでの動画収録の様子

「ウエカツ流サカナ道一直線」の連載が始まってはや5年目。ここ十数年の地球を海と魚を通して眺めていると、宇宙の周期のみならず人間の文明と経済優先の所業もあって、地球は大きく変わろうとしているように見える。「陸の飢饉(ききん)は海の飢饉から」と、むかし浜で出会った古老が語ったように、いままさに海の飢饉といえなくもない。

そこに棲(す)む魚やら多様な生き物が、水温上昇だけでなく、大きな変化についていこうと、生態と量を変え、必死に生きているだけなのだが、人間の都合で言えば、獲(と)れるはずのものが獲れなくなり、獲れるはずのないものが獲れ、予測のつかない海になったという不安となる。

気象をつくる海が変われば、陸の生物や作物も変わるのは必至。度重なる天変地異に加えて新型コロナウイルスの発生は、2年足らずで生産から消費すべてをひっくるめた私たちの暮らしをすっかり変えつつある。これからもこのようなことが起こることは、むしろ自然の流れでもあろう。

一方、われわれが住む島国ニッポンの地勢は変わるわけもなく、その海と山川草木に恵まれた地盤を生かして生きていかねばならない。天災やコロナに意気消沈することはあれ、いまこそ改めて日本の食的象徴である魚を伝えて、この国の活路を拓(ひら)く、その手を緩めるわけにはいかない。国の姿は食の姿なのだ。

これまでの20年間、魚を伝え続け、コロナによって対面・集合という伝達手段の大きな柱を折られたわけだが、折しも旧知である東京工業大学の木倉宏成研究室が開発したオンラインシステムを導入し講演や料理講習を試みたところ、新たな可能性が見えてきた。

人と魚をつなぎ直すには対面が重要と思っていたが、参加人数や場所を問わず、しかも重要なポイントを拡大して映すことができるので、対面よりも、むしろよく伝わる。録画しておけば復習もできるので、家庭での調理の再現性も高く、確実に身に付く。地獄に垂らされた一本の蜘蛛(くも)の糸のごとく、力強く機能してくれる手段であることがわかってきた。YouTube(ユーチューブ)であれば社会に残り、万人に資することができる。

となれば、やってみよう。57歳、これからの生涯をかけて、力の限り、これまでに培った魚や食のことのすべてを映像と言葉に乗せて残し、この国に捧(ささ)げようと思う。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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