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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2019年12月20日
Column #003

おせちと食す郷土料理を大切に

「日本料理 銭屋」のお節(提供写真)

金沢の冬の風物詩として、兼六園の「雪吊(づ)り」があります。雪の重みから木や枝を守るため、幹の近くに芯柱を建て縄を円錐(えんすい)状に垂らした景色が広がると、冬も本番を迎えます。

金沢の食文化は恵まれた自然環境から生まれています。日本海で獲(と)れる海産物や、発酵が促進される湿潤な気候、肥沃(ひよく)な大地、白山連峰から流れてくる伏流水。これらが生みだす食材の素晴らしさに加え、京都から茶道や懐石を採り入れ、文化的な洗練も重ねてきました。

さて、この時期に気になるのが、正月のおせち料理です。主人を務める「日本料理 銭屋」では年末の営業が終了すると直ちに準備に入ります。今回は金沢の食文化として、おせち料理と一緒に頂く郷土料理「鮒(ふな)の時雨(しぐれ)煮」を紹介します。

フナはかつて貴重なタンパク源でした。石川県中部にある河北潟には専業の漁師がいたほど常食されていました。そのフナは、毎年12月27日に競りにかけられる慣習がありました。なぜだか分かりますか。語呂合わせで「フナの日」の年末の27日に、時雨煮をつくるために競りが行われていたのです。漁獲量が減った最近は相対取引が中心ですが、金沢独特の光景を見て、いよいよ年も押し迫ってきたなと実感したものです。

時雨煮の作り方は鮮度の良いフナに串を打ち、うろこがついたまま素焼きにします。それをしょうゆ、砂糖、酒、ショウガなどで味つけし3日間かけて煮込みます。競り翌日の28日から煮込み始め、大みそかは1日寝かせて煮染めます。

そして元日にはおせち料理とともに骨まで柔らかくなったところを頂きます。全国各地でおせち料理と一緒に食す料理があるかと思います。みなさまも、そんな郷土の味を大事にして良いお年をお迎えください。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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