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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2020年3月27日
Column #006

異能の若手の器がつくる「景観」

飛び石をイメージしたseccaのお皿は借景の窓などと調和し、十月亭の空間を演出する(提供写真)

和食におけるサステナビリティー(持続可能性)は、気候変動による自然環境の変化への対応や食材の保全にとどまりません。私は「人」が重要だと考えています。伝統を守りつつ、未来を切り拓(ひら)く「異能」の人材を発掘し取り込む気概が和食を後世に伝えるために必要だと感じています。

特に、料理人の常識を覆すような若手の作品や発想からは刺激を受けます。

たとえば、私が才能に惚(ほ)れこみ、器の制作を依頼している「secca(雪花)」という金沢市のクリエイター集団がいます。代表の上町達也さんや陶芸家兼デザイナーの柳井友一さんは伝統工芸の制作に最新の3Dプリンターを取り入れて、独特の美しい流線形を描く陶器を生み出しました。

彼らの創作の源泉にある発想は、ユニークかつ大胆なものです。私が主人を務める「十月亭(じゅうがつや)」(金沢市)で昼下がりにスイーツとお茶やコーヒーを提供するお皿に考えが表れています。

日本庭園の飛び石をイメージしたという和風のお皿は、カウンターや窓を借景として「景観」をつくりだす美しさ。白を基調とした見た目は飛び石のようですが、素材は軽量な人工大理石を採用し、女性スタッフでも持ち運びしやすい機能性を備えています。

柳井さんは「器が景観をつくるという体験の価値を考え、空間全体のしつらえを提案しました」と語ります。一方で、前職で家電メーカーにデザイナーとして勤務した経験から「収納性、手入れのしやすさなど機能もしっかり盛り込みました」と話します。

このお皿を前にすれば、新しい和食の世界観を感じることができるはずです。まさに、彼らの「新たな体験のカタチを創造する」という考えを象徴しています。これからも領域を超えた才能との協業に挑み、和食のサステナビリティーをより高めていきたいと思います。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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