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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2020年5月22日
Column #008

鯨食文化守るのも料理人の使命

クジラの刺身(くじらタウン〈https://www.kujira-town.jp/〉提供)

新型コロナウイルスの感染防止のため、筆者が主人を務める「日本料理 銭屋」(金沢市)も休業を続けています。いまは和食の歴史を振り返り、新たなアイデアを練りながら営業再開を目指す日々を過ごしています。

伝統を受け継ぐ料理人の一人として、いま危惧しているのが「鯨食」文化です。日本が昨年7月に商業捕鯨を再開してもうすぐ1年がたちますが、反捕鯨国の批判などの影響で需要は大きく落ち込んでいます。海洋国家の日本は古くからクジラを食し、江戸時代には組織的な捕獲を始めたといわれています。戦後は学校給食でも提供され、食糧難に苦しむ人々の暮らしを支えました。

当時は肉の代用食と考えられていましたが、牛や豚に比べて脂肪の少ない赤身はさっぱりしていて新鮮な刺し身には独特のおいしさがあります。タンパク質など栄養価も高い貴重な食材です。金沢ではいまも仕入れがあると、料亭や割烹(かっぽう)の料理人が「きょうはクジラが入っていますよ」とお勧めする光景がみられます。

ただ、国際的な風当たりが強いのは事実です。海外の料理人から「ホエールイーター(クジラを食べる人)」と野蛮な人種のように呼ばれ、批判を身をもって感じたこともあります。

私は鯨食は日本の食文化の一つであり、尊重してほしいと訴えてきました。鯨食には捕獲から処理、流通、料理の過程があり、それを支える技術や道具、産業があります。これを受け継ぐ人材がいなくなれば、文化が失われてしまいます。

例えば、高級部位である尾の付け根の霜降り肉「オノミ」は、最近は輸入品が主流になっており、かつて国内で処理していたころの味が失われつつあるという人もいます。漁業資源の保護を前提に、日本の食文化のサステナビリティー(持続可能性)を守ることもわれわれの使命ではないでしょうか。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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