魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2020年6月19日
Column #009

アユの塩焼きに秘められた技

アユの塩焼き(日本料理 銭屋提供)

6月に入り経済活動は動きを取り戻し始めていますが、まだ金沢の街に人影はまばらです。「日本料理 銭屋」も営業を再開し、新たなおもてなしを模索する日々です。みなさんも外出控えが続いていると思いますが、せめて食材で夏を感じてほしいと思います。

この時季に真っ先に思い浮かぶ食材がアユです。海の幸のイメージが強い金沢ですが、市内には犀川と浅野川が流れ、例年通り6月16日にアユ漁の解禁を迎えました。待ちわびた釣り師は短い漁期を存分に生かそうと、連日釣果を競います。

銭屋で使うのは、そんな釣り師たちから仕入れた天然物のみ。川魚は鮮度が落ちやすいので専用の水槽に入れ、生きたままの状態で調理します。

アユというとやはり塩焼きでしょうか。単純な調理法と思うかもしれませんが、焼き物のうち最も難しい仕事の一つです。生きたアユに串を打ち、塩を加減よく振るのも技術ですが、火の通し方には熟練の技が求められます。

アユは大まかに、頭、胴、尾・ひれの3つに分かれます。金沢では塩焼きには全長15センチ程度の小ぶりなものを使い、頭部やひれも丸ごと食べるのが一般的。だから、全く違う3つの部位を炭火で、それぞれ食べ頃となる焼き具合に仕上げなくてはいけません。

火の強さや当たる部分を調整し、時にうちわも使って焼く繊細な仕事です。うまく焼くと頭はサクサクで身はふわっと、ひれや皮はパリパリという食感の妙が楽しめます。

もちろん、味わいも身の甘みや、はらわたの苦み、皮をあぶった香ばしさを塩が引き立て絶品です。熱々でお出しし、冷えたビールをきゅっと流し込むと、いっそう食が進みます。

必要以上に手を加えず、旬の食材のうまさを最大限引き出す-。アユの塩焼きという身近な料理にも、和食の本質が秘められています。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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