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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2021年8月20日
Column #023

松茸料理の継承に必要なこと

秋を代表する味覚の松茸。1キロ当たり10万円以上の値がつくことも

今年は立秋を過ぎても、秋らしい風が吹くどころか、台風や大雨に見舞われて大変な被害が出ています。それでもお盆を過ぎると、私の気持ちは秋の食材へと向きます。秋はさまざまな食材がそろう時季で、料理人にとっては心待ちにする季節です。鱧(はも)や鯛(たい)、栗や蓮根(れんこん)などが代表的ではありますが、何といっても人気が高いのは松茸(まつたけ)ではないでしょうか。

万葉集にも「秋の香」と表して、松茸を詠んでいることから、古(いにしえ)の頃から日本で愛され続けてきた食材といえます。今や流通している松茸の多くが外国からの輸入品ですが、国内には能登や丹波など、素晴らしい産地があり、上質の国産品ともなると、1キロ当たり10万円以上が当たり前の世界です。

さて、この松茸はいつからこんなに高価になったのでしょう。今では考えられませんが、実は椎茸(しいたけ)の方が松茸よりも珍重されていた歴史が長いのです。椎茸栽培自体が始まったのは江戸時代からといわれていますが、栽培の難しさから、栽培方法はその村の秘密とされていたほどでした。その一方で、松茸は今とは比べ物にならないくらいたくさん自生しておりましたので、椎茸に比べかなり価値が低かったのです。

昔、家庭での主たる燃料は薪(まき)で、主に赤松でした。その赤松や燃えやすい松の葉を確保するために、人々は山を整備しなければなりません。その結果、松茸が育ちやすい環境を維持することができたのです。ところが、徐々にプロパンガスが普及してくると、燃料としての松の需要は減り始め、山の仕事に従事する人も減り続けました。エネルギー革命に加え、過疎化も進み、松茸の収穫量や流通量が激減したのです。

松茸料理といえば、すき焼きや鱧松の椀盛などが思い浮かびます。われわれの暮らしが便利になった一方で、これらの料理を伝承するには、山をどう守っていくかも考えなければなりません。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド北陸2021特別版」で二つ星と、環境配慮を評価する「グリーンスター」を獲得。

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