金沢に水揚げされた寒鰤
昨年の暮れまでは歴史的な不漁といわれた鰤(ぶり)ですが、年末ギリギリから年明けの初競りにかけてようやく復調の兆しが見えてきました。例年であれば11月下旬になると、連日のように「寒ブリ、大漁!」と報道されていたのですが、昨年はサッパリどころか、市場でも全く姿を見ることがなく、本当に鰤たちはどこに行ってしまったのかと心配しておりました。環境や生態系の変化が原因なのか、漁場もこれまでとは少しずつ変わってきています。昔は鰤がほとんど獲(と)れなかった北海道では今、鰤が定置網漁で鮭よりも多く獲れることもあるとか。
鰤料理といえば、刺し身や照り焼きと並び、大根と一緒に炊き上げる「鰤大根」も外せない定番の一品です。金沢では、加賀野菜の一つである源助大根がよく使われます。普通の大根と比べて、ひとまわり太く、長さは短めです。見た目にはそれほどの差異はありませんが、煮炊きものにするとその違いが明確にわかります。鰤大根のようにしっかりと炊き上げても、独特な繊維質のおかげで煮崩れしにくいのです。もちろん、大根おろしにしてもその甘さは独特です。そして、旬も鰤と同じですので、まさに鰤のための大根といえますね。
平成20年11月に東京・銀座のフレンチレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京」でコラボレーションをした際に鰤大根を提供しました。いつものレシピではなく、石川県能登町宇出津港で水揚げされた10キロを超える鰤と源助大根に、ブルーチーズで味を仕上げた一品でした。銭屋とベージュのコラボレーションでしか提供できない料理を作ろうというコンセプトで、以前より試してみたかったこの一品を迷わずにメニューに載せました。
鰤の旨(うま)みが凝縮された源助大根と濃厚なブルーチーズの絶妙な組み合わせは今でも記憶から消えることはありません。
金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド北陸2021特別版」で二つ星と、環境配慮を評価する「グリーンスター」を獲得。