魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

SAKANA & JAPAN PROJECT
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2020年10月30日
#004

「魚払い」で遊べる町、西伊豆町海なし町の釣り初心者も楽しめるかモニターツアーを実施!

初心者の女性もレンタル・レクチャーのおかげで、この通り

「いか様丼」を目当てに、行列ができていた

静岡県西伊豆町で、観光客の釣った魚を町内でだけ使える“地域通貨”で買い取る「ツッテ西伊豆」が9月8日にスタートした。町では10月初めに、姉妹町である山梨県市川三郷町から6人の町民を招き、1泊2日のモニターツアーを開催した。ツアーはツッテ西伊豆の体験に加え、釣りたての魚の食事や日の出クルーズ、わさび収穫など、西伊豆の海・山・町を丸ごと楽しめる内容。参加者は抽選で選ばれた30~70代の男女各3名だ。

モニターツアーは、ツッテ西伊豆などの観光コンテンツについて、観光客の視点で魅力や改善点を探るのが狙い。西伊豆町まちづくり課の松浦城太郎さんと、ツッテ西伊豆の企画者である釣りアンバサダーの中川めぐみさんが主体となって企画した。

初めての釣りに戸惑いながらも大漁!

市川三郷町からのモニターツアー参加者が西伊豆町仁科港へ到着したのは朝8時半頃。バスを降りた途端、「潮の香りがする」「海が目の前だ!」と一様に笑顔を見せた。山々に囲まれた町で暮らす参加者たちには、海を間近に感じられるだけでも非日常。最初に体験する「釣り」に関しては、竿を握ったことさえない人が大半で、緊張しながらも高揚が抑えられない様子だった。船員さんにサポートしてもらいながら釣り船「龍海丸」へ乗り込み、船が出航すると、それだけで歓声が起きた。

出航から10分ほどで釣り場に到着すると、船員さんによる釣り教室が始まる。「エサはエビを使います」「糸は10メートルごとに色が変わるので、よく見て深さをカウントしてください」など、実演を交えながら丁寧に説明が行われた。今回のツアーで体験するのは、レンタル・レクチャー付きのファミリープラン。レクチャーが終わると、道具がセットされた各自の持ち場について、さっそく釣りをスタートした。

最初は針にエサがうまく付けられなかったり、深さが分からなくなったりと、ほとんどの参加者が助けを求めた。20代の船員さんが、笑顔で参加者たちの間を行き来する。そうして釣り始めて10分程、「竿がブルブルしてる!」「わー、釣れた!」とあちこちで楽しそうな歓声が上がった。見れば参加者たちが笑顔でイサキをぶら下げている。ここでもう一度集合し、今度は釣った魚を「締める」レクチャーへ。ツッテ西伊豆で釣った魚を買い取ってもらうには、“鮮度の維持”が絶対条件なのだ。参加者たちの視線が集まる中、船員さんは元気に暴れるイサキのエラ部分に指を入れ、優しく傷をつけた。そうして海水を張った水槽でイサキを泳がせると、自然に血が抜けていく。動かなくなったところを、すぐに氷水の中へ移せば「締め」の作業が完了だ。参加者の多くは生きた魚を触ることも初めてで、戸惑った顔をする方もいたが、「これが命をいただく…ということなんですね」と、生命への感謝を再認識した様子だった。

釣りを再開してしばらく。どの参加者も慣れてきた様子だったが、30代の女性参加者が群を抜いて次々にイサキを釣り上げていた。見ると、積極的に船長へ指示を仰ぎ、その通りに実践していた。海と魚を知り尽くしたプロ(船長)の教えをしっかり聞くことが、やはり大切なようだ。通常のファミリープランは4時間だが、この日は行程の都合、3時間弱で釣りを終了。1番多く釣ったのは船長の指示を仰いでいた女性で、イサキ18匹とアジ1匹という成果に大満足の様子だった。

釣った魚は電子地域通貨で買い取り

下船後は、釣った魚と、船で発行された「乗船証明書」を持って、港から徒歩5分ほどのところにある町が運営する産地直送市場の「はんばた市場」へ。店内に並ぶ西伊豆の海・山の幸を気にしつつも、まずは釣った魚を買い取ってもらうため、鮮魚コーナーへ向かった。魚種やサイズ、市場価値などを加味して値が付けらる。参加者たちは1人ずつ自分の釣った魚を渡し、計測を見守った。買い取り価格が最も多かったのは、やはり1番多くの魚を釣り上げた女性。金額にして約2,200円となり、電子地域通貨「サンセットコイン」と交換してもらう。サンセットコインは、専用カードか、スマートフォンアプリのどちらかにチャージ。利用できる店舗は、飲食店や土産物店、宿泊施設、温泉施設、ガソリンスタンドなど約130箇所。観光客は魚を釣るほどに町で遊べる“軍資金”が手に入る仕組みだ。

全国1位の絶品丼に舌鼓

次に向かったのは、はんばた市場の隣にある「沖あがり食堂」。魚介料理のコンテスト「2017年度 第5回 Fish-1グランプリ」で全国1位になった実績を持つ名物「いか様丼」を、昼食にいただいた。いか様丼は、西伊豆の名産である新鮮なイカを刺し身と漬けにして、卵の黄身と共に酢飯に載せたもの。濃厚な旨みが特徴で、どの参加者もあっという間に完食した。女性陣には味噌汁に入った「ふのり」という海藻も好評で、「プリッとした食感が楽しい」「お土産に買って帰りたい」と会話が弾んでいた。

「魚払い」で町巡りを楽しもう

昼食の後は、いよいよサンセットコインを使いに町巡りへ。松浦さんの案内で、130年以上の歴史を持つ老舗の鰹節屋「カネサ鰹節商店」を訪れた。こちらでは鰹節をはじめ、西伊豆の伝統食である「しおかつお」の製造・販売を行っている。参加者たちは商店の代表である芹沢安久さんから、しおかつおの歴史や製造方法を教えてもらい、その後に売店で商品を購入した。支払いはもちろんサンセットコイン。「釣った魚が、魚の加工品に変わった」「魚払いで買い物ができるなんて、面白い」と楽しそうだ。

釣りたての魚は特別な美味しさ

買い物の後は、釣り船「龍海丸」が営む民宿へチェックイン。こちらでは龍海丸で釣った魚に限り、料理をして食べさせてくれる。今回はモニターツアーの都合、参加者が釣った魚は全てサンセットコインに交換してしまったため、船員さんがサポートの間に釣ったイサキを特別にわけてもらった。釣りたてイサキの刺身や煮付け、さらには漁で獲った伊勢海老が丸ごと入った味噌汁など、海の幸のご馳走が並ぶ。参加者たちは「今朝釣ったばかりの魚を食べられるなんて、感動」「臭みが全くないし、プリプリ感がすごい」と、嬉しそうに箸を進めた。食事の後半には松浦さん、中川さんが参加者に、ツッテ西伊豆に対する感想や意見をインタビュー。楽しかったと満足する声が一様に上がったが、「持ち物や服装に関する情報を、もっと詳細に発信してほしい」「釣りをしている際、サポートしてほしい時と、自分で頑張りたい時があるから、サインなどが決まっていると嬉しい」など、要望も伝えられた。

世界ジオパーク認定の絶景に朝から感動

翌朝は6:30に港へ集まり、朝日を浴びながらのクルージングへ。海底火山の噴火による水底土石流(すいていどせきりゅう)と、その上に降り積もった軽石・火山灰層が織り成す、美しくも巨大な岩壁の間を、船ですり抜けていく。1番の見せ場は、長い年月をかけて波に浸食されてできた洞窟「天窓洞(てんそうどう)」。洞窟中央の天井が丸く抜け落ちており、そこから差し込む光は異世界に迷い込んでしまったかのような美しさだ。「こんな景色が日本で見られるなんて、驚きです」と感動する様子が見られた。

山の魅力「わさび」の収穫体験も

朝食後は海から一転して、山へ。栄養豊富な天城の天然水を活用して無農薬のわさびを作り続けている、昭和3年創業の「堤農園」へ伺った。世界農業遺産に認定された「畳石式」農法を受け継ぐ堤農園は景観も美しく、山の景色は見慣れているはずの参加者たちも魅了されていた。3代目の堤圭祐さんにわさびの生産方法や特徴を習った後は、特別に収穫体験を実施。普段目にするわさびは“根茎”と呼ばれる部分で、大部分が土に潜っていおり、抜いてみないと大きさがわからない。参加者たちがわずかに見える根茎の太さや、茎や葉の状態を見て大きなわさびを探す様子は、宝探しのようだった。市場にはなかなか出回らない茎や葉も実は美味しく食べられるそうで、参加者たちは調理法を真剣に習っていた。

西伊豆町へのラブコールが続出

最後は再び、はんばた市場へ。干物や海藻、美味しさを閉じ込める特殊な冷凍技術「凍眠冷凍」を使った鮮魚などをお土産として、発泡スチロールいっぱいに購入していた。昨日釣って買い取ってもらったイサキが鮮魚コーナーに並んでいるのを発見した参加者が、見ず知らずの観光客に「これ私が釣ったんです。美味しいですよ!」と、売り子を買って出ていた。全ての工程を終了してバスに乗り込む際には、「西伊豆の虜になりました」「また絶対にきます!釣りもしたい」とラブコールが続出。モニターツアーの数日後には、参加者の1人から中川さんに「西伊豆に再訪したいのですが、ツッテ西伊豆を体験できる釣りプランは他にもありますか?」と、問い合わせがきたという。

松浦さんは、「参加者さん達が楽しんでくださり、本当に良かった。いただいたご意見も具体的で、改善できることが多かった。ツッテ西伊豆をはじめ、西伊豆の観光コンテンツをさらに魅力的なものにして、多くの観光客に満足していただける地域へ進化していきたい」と今後の展望を語った。

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