神様からの頂き物「myしおかつお」作り
だしにも具材にも 魅惑の万能食材
「しおかつお」作りに挑戦する釣りアンバサダーの中川めぐみさん
完成した「しおかつお」は、わらの飾りを付けて神様にささげられる
8~9月に掲載した静岡県西伊豆町の特産品であるカツオ節の魅力を紹介する連載の番外編。釣りアンバサダーの中川めぐみさんが、同町でカツオ節の起源といわれる「しおかつお」作りに挑戦した。
「世界に一つだけの『my(マイ)しおかつお』を作りませんか?」。多くの人が「?」を浮かべると思うが、カツオ節の起源といわれる乾(から)干し塩蔵品「しおかつお」を日本で唯一生産している西伊豆町で実際に言われたセリフだ。
仕事で何度も西伊豆町を訪れているうちに、「しおかつお」にすっかり魅了されてしまった。だしをとったり、削り節として使ったりするカツオ節に似た食材かと思ったら大間違い。半生の食感で、うま味と塩味が強く、生ハムに近い。薄く切って、そのまま食べると、お酒のあてになる。西伊豆町では、焼いて身をほぐし、お茶漬けで食べるのが一般的という。だしをとるのと、具材として食べるのと、両方の役割をこなしてくれる。
おすすめは、「しおかつおうどん」。ゆでたてのうどんに、しおかつおの焼き身、ゴマ、ノリ、ワカメ、カツオの削り節、刻みネギ、温泉たまごをのせて、だししょうゆをほんの少し垂らし、ざっくりと混ぜていただく。濃厚なのにさっぱりとした味わいが癖になって、同町に行くたびにリピートしている。
しおかつおのことを料理関係の友人や知人に話すと、みんな興味津々。和食はもちろん、イタリアンや中華の料理人も、「薄く切ってオリーブオイルとかんきつのフルーツを合わせると良さそう。パスタもいい」「ごま油を使うと、相乗効果でうま味が増すのでは」と、創作意欲をかき立てていた。
そこでいろいろな料理に使うため、大量のしおかつおを手に入れようと、しおかつお作り体験会へ参加することにした。約140年もの間、しおかつおやカツオ節を作り続ける「カネサ鰹(かつお)節商店」の主催で、11月半ばに行われた。
1人につき1尾のカツオを丸ごと使う。身に塩を擦り込むくらいの簡単な作業を想像していたのだが、会場に着いたら大量の解凍カツオが水槽に浮かんでいてびっくり。4キロほどの立派なカツオを自分で選び、包丁でおなかを裂き、内臓とえらを外し、目玉の水分を内側からかき出すという驚きの工程に、他の参加者も最初はおっかなびっくり。
しかし、気付けば誰もが真剣なまなざしで取り組んでいた。身をきれいにしたら、塩を擦り込む作業へ。水分が残ると傷みやすくなるので、頭から尾まで、身の内側と外側をしっかりと塩でマッサージ。目の中にまで塩を擦り込む。
後は2週間発酵させ、1カ月ほど乾燥させれば完成。自分の名前を書いたタグを付けて預ける。自宅に届くのは12月末ごろ。同町では正月に、しおかつおを神棚に供え、その後に神様からの頂き物として家族や近所の人と分けて食べる文化があるそう。正月に友人たちと、しおかつおを食べる会を開きたいと思った。
同町でも生産量が限られるしおかつおだが、とても味わい深い魅惑的な食材だ。西伊豆町に出かけてぜひ試してみてほしい。きっと「myしおかつお」を作りたくなるだろう。(釣りアンバサダー 中川めぐみ)