私は子供の食育と同じくらい大人の食育の活動に力を入れています。大人が対象ですから、単に健康になればいいというものではありません。講演では、新聞の経済面や社会面の時事ネタを交えながら日本の食料自給率や環境問題などについて取り上げ、自分の行動が社会とつながっているという自覚を持って食べる物を選ぶことがいかに大切かを知ってもらえるように勧めています。
講演をしている中で感じるのは、大人の食に対する知識の不足です。平成17年に食育基本法が制定され、子供への食育が盛んに行われるようになりました。しかし、17年当時すでに義務教育を終えていて食育を受ける機会がなかった今の30代以上の大人たちが家庭を持つようになるなか、大人向けの食育に取り組まないと、次世代の子供たちに大切な食の知識が受け継がれていかない状況になってしまいます。
特に魚食についての知識が大人に乏しいことにはいつも驚かされます。例えば「秋刀魚(サンマ)」。秋だけでなく初夏から獲れると話すと、多くの大人が目を丸くします。そもそもサンマは回遊魚で一年中生息していることを知らない人が多いのです。和食には出始めを食す「走り」、盛りの「旬」、余韻を味わう「名残」の3通りの楽しみ方があります。「脂ののったサンマもいいけれど、走りのサンマはさっぱりしておいしいんですよ」と言うと、さらに驚かれます。
スーパーで目にするサンマは見事に大きさのそろった傷のない立派なものばかりです。しかし、漁では色々な大きさのサンマが網の中に入っていて、それを選別して大きいものだけを出荷していることを多くの人が知りません。小さいサイズのサンマは針子と呼ばれ、丸干しにしたり、すり身にしたりして、浜の漁師飯や郷土料理として有効利用されているのです。
そうしたことを話すと、多くの人が「もっといろんな魚を食べてみたくなった」と興味津々になり、魚食を楽しむようになるのです。「もっと早く教えてほしかった」という声も多いことから、日本の魚食を次世代へつなぎ未来を元気にするためにも、今こそ大人向けの“魚食育”が必要だと言えるでしょう。
大人向けの食育こそが今、必要とされている
食育専門家。「美味しく楽しく 笑顔は食卓から」をコンセプトに、食の専門知識を生かし水産庁の各種委員や調理師専門学校講師を務めるほか、本の執筆やTVコメンテーターとして各メディアで活動。食育セミナーや食を通じた地域活性化にも精力的に取り組んでいる。著書に「浜田峰子のらくらく料理塾」など。