魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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食育専門家・浜田峰子の魚で元気な未来!

2019年8月30日
Column #031

着物の魚介柄に
込められた願い

私たちの食卓に欠かせない魚介類は、食べ物としてはもちろん、昔から衣食住に欠かせない着物や器の柄としても親しまれてきました。江戸を代表する着物の染め柄である江戸小紋にも魚介類の柄が多く使われています。江戸小紋はとても精緻な文様で遠目には分からないほど細かな柄です。子孫繁栄や長寿富貴、五穀豊穣(ほうじょう)などさまざまな願いとともに、ほんの少し遊び心を持たせて江戸っ子の洒落(しゃれ)と粋がよく表れています。

海は「青海波(せいがいは)」という文様で表され、波が末広がりに広がっていく縁起が良い柄として愛されています。鮫(さめ)の皮のように染め抜いた鮫小紋の柄は、固い鮫の肌が鎧(よろい)に例えられることから、厄除(やくよ)けや魔除けの意味を持つとされ、武士の裃(かみしも)に用いられました。

鯛(たい)は、「めでたい」とかけた縁起の良い魚で、着物の柄としてよく使われています。また蛤(はまぐり)などの二枚貝は、貝がぴったりと対になることから夫婦和合の幸せな結婚の象徴とされ、江戸小紋はもちろん女の子の祝い着の柄としても好まれてきました。

海老(えび)は、腰が曲がるまで長生きする長寿の象徴の文様として人気で、海老と同じ赤色に染めて身に着けることで不老を願います。魚の妻(つま)として添えられる大根とおろし金をあしらった柄は、「大根をおろす」から「大根役者をおろす」、「厄をおろす」に転じ、厄除けの意味を持つ江戸っ子ならではの洒落のきいた小紋としてとても人気です。

料理を盛り付ける器にも魚介類の絵柄が多く用いられています。かの有名な芸術家であり美食家でもあった北大路魯山人は「器は料理の着物」という言葉を残しています。時や所にふさわしい着物を選ぶのと同じように、器もまた食べる人のことを思い、季節や目的にふさわしいものを選ぶことが大切だということです。皆さんもぜひ、身の回りの着物や器の魚介類の文様に込められた意味を知って、季節の行事やおもてなしに生かしてみてください。

波が広がっていく様子は江戸小紋の柄によく使われた

浜田 峰子
はまだ・みねこ

食育専門家。「美味しく楽しく 笑顔は食卓から」をコンセプトに、食の専門知識を生かし水産庁の各種委員や調理師専門学校講師を務めるほか、本の執筆やTVコメンテーターとして各メディアで活動。食育セミナーや食を通じた地域活性化にも精力的に取り組んでいる。著書に「浜田峰子のらくらく料理塾」など。

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