魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

SAKANA & JAPAN PROJECT
Facebook Twitter Instagram

ウエカツ流サカナ道一直線

2017年9月22日
Column #007

けなげで慈愛に満ちたサケは偉い

「プライドフィッシュ」に選定されている岩手の「秋さけ」 (全国漁業協同組合連合会提供)

西のブリと並んで我(わ)が国における東の正月食文化を代表するこの魚は、関東では訛(なま)ってシャケ。新潟方面ではイヨボヤとも呼ばれているが、獲れる季節によっても呼び名は変わり、秋に産卵に来る奴は秋ザケまたは秋味。餌が多い海に居残って春に獲れるのは東北ではオオメマス、北海道ではトキシラズないし時ザケというのだからややこしい。しかし、ご安心あれ。本名はシロザケというのですよ。

我が国に産ずるサケマスの仲間は5種。ベニ、シロ、ギン、スケ(マスノスケ)、サクラマスとカラフトマスのマス2つ。ところがいわゆる“サーモン”となると、海だろうが池だろうが養殖されたサケマス類は全てこう呼んでいいことになっているのだから困ってしまうので、この話はやめよう。

川の上流で孵化(ふか)した稚魚は、集団をなして川を下って大海へと至り、4年の月日の旅に出る。その間、鳥やアザラシ、イカやクジラ、そして人間など食べてやろうと狙っている多くの試練を乗り越えて、毎年秋になると生まれた川の匂いを頼りに戻ってくるけなげな魚。そればかりではない。母なる川の懐で産卵を終えた親ザケは、森の禽獣(きんじゅう)の餌となり、朽ち果てては川の、ひいては海の栄養に帰っていく。

つまり、生まれてから死ぬまで、そして死後も他者に貢献を続けているような一生。功徳と慈愛に満ちた魚であることを、わたしたちはハッキリと認識すべきだと声を大にして言いたい。現に北海道先住民アイヌの人々はこの魚を“神の魚”とあがめつつ食べてきた。スーパーの塩ザケ一切れがどれほどエライか思い直さねばなるまい。

というわけで、合掌しつつ大切にいただきます。塩とたいへん相性が良く、最近の甘塩よりも、しっかり塩漬けにして熟成した塩ザケ、これを「山漬け」というのだが、その風味ときたら、ダシの旨さ、タンパクの良質のみならず、天然の調味料としても、この世のあらゆる料理に用いて恥ずところのない実力を発揮する。

食べ方の種類も多く、新潟県の村上地方に伝わるサケ料理はおよそ50種。現代版も入れると80種。家庭にサケ1匹来たならば、焼き、揚げ、煮、汁、鍋、蒸し、冷凍して刺し身。残れば塩ザケにと、余すところなくその恩恵に浴していただきたい。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

Page Top