魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2017年10月20日
Column #008

サバ味の深淵を探る

「プライドフィッシュ」に選定されている神奈川県の「松輪サバ」 (全国漁業協同組合連合会提供)

最近、サバの身辺がなにやら騒がしい。「〇〇サバ」のように“冠”をつけたサバが、やたらと増えているようなのだ。

挙げてみますと、関サバ、旬サバ、五島サバ、松輪サバ、駿河サバ、金華サバ、八戸沖サバなどなど。つまりこれは、「ブランド鯖(さば)」と総称されるご当地ものであって、中でも名の知れた大分・佐賀関の関サバは生産者ブランドの草分けで、漁協商標の第1号であった。あれから二十余年。ブランド鯖が増えてきても価格は高値が続いている。これは生産者にとってはいいことにはちがいない。

しかし、そもそもサバという魚は果たしてそのようなお高い存在であったのだろうか。各地の青魚の群を追う巻き網漁業においてイワシとサバは無尽蔵に獲れた家計に優しい食卓の定番。「大衆魚」であった。

焼きサバ、醬油(しょうゆ)煮、味噌(みそ)煮、干物、酢締め、缶詰や各種加工品。地域によっては刺し身でも食べており、それぞれ郷土の味として今でも愛されている。それがサバだ。脂の乗ったサバがいいとなれば、遠く北欧の地から輸入までして食おうとしている現状をみるとき、この執着にも似た愛着ぶりは何なのであろうかと振り返る。

なるほど、ブランド鯖が林立する今日ではあるが、その他のサバをもって相変わらず大衆性を保つ側面も消えてはいないということか。それはとりもなおさず日本人に対するサバ味の求心力の強さにほかならない。

されば一個の日本人として、私もまたサバを語ろう。自分はサバの何が好きなのであろうか。まずダシ力が強い。他のどの魚ともちがう、体の奥をえぐるような濃厚なコク味。それがサバの本領だ。小さくても大きくても、太っていても痩せていても、鮮度が良くても悪くても、調理の仕方によっていかようにもおいしく食べられる。加えて、畜肉にも近い味の強さと、きめ細かな身のやさしさ。これらが混然となってサバは僕を引きつけてやまない。もの心ついたときから魚にかかわってきた人生において“ソウルフード”があるとすれば、テニス選手が言うような高級魚ではなく、それは僕にとってはサバなのだ。背開きにして塩を当て、うねり串を打って炉端でじっくり焼かれたサバの身をほぐして口に運ぶとき、嚙(か)みしめるほどに心は初心に戻っていく。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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