魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2017年12月15日
Column #010

堂々たる冬のブリは「神の魚」

「富山湾のブリ」(全国漁業協同組合連合会提供)

「東のサケ、西のブリ」といわれるニッポンの正月魚の代表格であるブリは、長崎県の南方あたりの東シナ海で群れをなして産卵し、生まれた子らは流れ藻とともに太平洋と日本海に分かれて北の海に北上しつつ育つのでモジャコと呼ばれる。冬に向かって南下し故郷に回遊するその体軀(たいく)は最大で2メートル近く30キロにも育ち、冬場の戻り群は夏場の産卵を終えた細い体とはうって変わり、深く濃い緑色の背に、白銀に腹が輝き、その境目にはうっすら山吹色の帯が走る、でっぷり太った堂々たるもの。これを“寒鰤(かんぶり)”と呼んでいる。

名産として一に富山は氷見のブリ。北に上がって新潟の佐渡、青森の津軽海峡、太平洋側では三陸から千葉の房総、静岡、高知、長崎の五島列島、宮崎など産地は多い。津軽から九州までの全海域で獲(と)れる、というのが定説であった。

しかし、近年、北海道の秋サケを獲る定置網に10キロに届くような大ブリが入るようになり、地元では売れないしどうしたものかと相談を受けたのが10年前。以後、年を追うごとにその数は増えていき、いまや秋の札幌市場に行けば、うずたかくブリ箱が積まれている状況となってしまった。つまり海水温の上昇が進み、明らかに魚たちは回遊域を北にずらしていることの実証なのだ。ここ数年は品質も認知されてきたが、いかんせん季節は秋。冬のブリほど高くならないのが庶民にとってはお得というものだ。

とはいえ、やはり冬のブリは特別。“ブリおこし”と通称される雷鳴とともに押し寄せる寒ブリは、氷見の漁師をもって“神の魚”と言わしめる。尾を縛って軒先にこれを吊(つる)し、雪に点々と落ちる赤い血の美しさ。適宜削っては食卓を囲み、客人をもてなしていたのは古き良き原風景であった。吊すのは、冷たい外気による保存と同時に血抜きも兼ねている。それほどにブリは、血の気が多い。従い、日がたつにつれて血は生臭みに変わる。

というわけで、切り身や刺し身用のサクを買ってきたら、まず洗うべし。流水でさっと3秒、軽く押すようによく水を拭き、ペーパーに包んで保存するがよい。刺し身は薄く切り醬油(しょうゆ)をたっぷりつけることによって、さらに生臭さは抜ける。薬味はカイワレ、生姜(しょうが)か一味唐辛子が合う。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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