魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年1月1日
Column 新春編

魚売りの一年の計は年の瀬にあり

東日本の代表的な「年取り魚」である新巻きザケ

「年取(としと)り魚(ざかな)」という言葉がある。年内最後の仕事を終えて、新年仕事始めまでのつかの間の休息に、一年の労のねぎらい、人天共に味わうために捧(ささ)げ供する魚のことだ。元来は神事由来であるが、要すれば、おいしくゆっくり年越しするための特別な魚介ということになる。だから地域によっては「年越し魚」とも言うし、漁師たちは「正月ザカナでも獲(と)りに行こかい」と、いそいそ船を出す。年取り魚は心ときめく皆のご馳走(ちそう)なのだ。

年取り魚は、大きく2つに分かれる。およその分水嶺(れい)は、新潟の糸魚川と静岡を結んだ線であり、ここを境に生物の分布や食文化が変わるという。たとえば代表的なのが西のブリに対し東のサケ。地域によって生もあれば塩漬けもあるが、「ハレの日にふさわしい」「時期の」「身近な」「存在感のある」ことが共通している。

遠方より帰ってきた子や孫ら、挨拶に訪れる客人たちに、適宜切っては刺し身はもとより煮たり焼いたり雑煮にしたりで振る舞うのが、日本の魚的年越しの“決まり事”なのである。

場所が変われば魚も変わる。秋田のハタハタ、山形のマダラ、三陸のナメタガレイ、駿河の塩カツオ、能登の塩ブリ、長野のコイなどなど。農山漁村の分かちなく、神に捧げるのは畜肉ではなく魚なのであった。いにしえからの日本人の、単なる食習慣ではない、海の恵みに対する尊厳と憧憬(しょうけい)の念をそこに見ることができる。やはり我々は、島国に生きる者なのだ。

時は現代。ここ10年ほど、年末はあちこちの店頭で魚売りをしている。ハレの空気が盛り上がるこの数日間、ここぞとばかりに客の財布も開くのだが、そこには毎年変化がある。1万円のマグロやカニが飛ぶように売れていたのは10年前。今は親族が集まる習慣も少なく、客の目線が魚に向かない傾向にある。だからこそ、その魚屋の魚を伝えた1年間の努力が、この数日に表れるのだ。来年はどのように魚や客と向き合っていこうか。最後の売りを終えた晦日(みそか)の夜、ささやかに「年取り魚」をぶらさげ歩きながら、一年の計を立てるのであった。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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