魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年2月16日
Column #012

メバルはいかにして春を告げるか

青森県の「津軽海峡メバル」(全国漁業協同組合連合会提供)

明けて早春、日本列島は異例の寒波が続き、過剰な雪に各地が苦難に耐えている。しかし、“冬来りなば春遠からじ”。春風薫る季節はもうすぐだ。毎年この寒中に、春を匂わす魚を思い出す。それがメバルだ。

北は北海道、南は鹿児島まで、この仲間は多いが、浜では“沖メバル”と“地メバル”にざっくり分けている。いずれもぷっくりした体にクリクリ大きい目玉をつけて、群れて寄り添い流れ来る餌を待っている。冬の終わりのちょうど今ごろ、メバルは産卵を終えて身は痩せているのだが、春になれば一斉に回復を早め、雨後のタケノコが生えるが如(ごと)く浅い海に集い、時の風物となる。世にこれを“筍(たけのこ)メバル”と呼び、里の春の訪れとともに賞味する習わしだ。

“沖メバル”は50~100m程度の深みにおり、主にウスメバルとトゴットメバル。オレンジがかったピンクの肌に薄いこげ茶色の斑があり、癖のない身に脂を乗せる。釣りや刺し網で安定して獲(と)れる中高級魚だ。

一方、“地メバル”の方は大変興味深い。15年ほど前だろうか。それまで沿岸の磯などに棲(す)むのは、1種と思われてきた。が、遺伝子研究の進歩に伴い、今は「赤・黒・白」の3種に分かれることとなった。これらは生き方もさることながら、味わいも違うのがおもしろい。

「赤」は磯の海藻林とともに暮らし、その優しいしっとりとした肉質は舌の上でさらりと崩れてかすかな甘味がある。定番の煮付けならば、薄味のダシをたっぷり張って、それこそ旬のタケノコやワカメとともにゆるりと炊き、汁を吸いながら味わう春の風情に満ちている。お次の「黒」は、餌を求めて潮通しの良い磯を渡り歩く活動派だ。筋肉は強く弾力に富み、黒みを帯びた皮はゴム質で歯応えがある。削(そ)ぎ切りにした刺し身に湯引きの皮を添えてワサビ醬油(しょうゆ)で嚙(か)みしめる。最後の「白」は、最も大きく育ち、時には静かに時には泳ぎ回る変化自在。味はバランスが良く、刺し身もいいが、甘辛の煮付けや塩焼きは、メバルらしさに満ちている。

ではお前はどれが好きなのかと、問われれば。晩春の白の10~15㎝くらいのやつ。面倒くさがらずに三枚におろし、片身一枚の天ぷらに揚げる。皮の香ばしさ、身肉のはかなき甘さ、サクリときて喉に落ちていく旨(うま)さがもどかしい。これがよい。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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