魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年4月13日
Column #014

春、桜色のタイに海は染まる

徳島県の「鳴門鯛」(全国漁業協同組合連合会提供)

体が“平らか”だからタイであるとは古書が述べるところであるが、そんなことを言い出したら魚類界はタイだらけになっちまうので忘れておく。タイと呼んで納得がいく姿をしているのは、マダイ、チダイ、キダイ、タイワンダイ、クロダイ、キビレの6種といったところだが、中でもマダイは各ヒレをピンと張った銀赤色に輝く美しいその容姿をもって、神代の時代より目出度(めでた)い魚として日本人の心をひきつけてやまない。

どういうわけか赤い色は、われわれの単なる嗜好(しこう)を超えて遺伝子に刷り込まれているかの如(ごと)く愛着がわくもののようだ。

海が春めいて多くの魚が産卵に入るこの時期、冬に深場でじっくり栄養を蓄えたマダイもまた、時を得て浅場に群れ集い大漁となる。これを、世に「桜ダイ」と呼ぶ。この時期のメスは呼称の如く、まさにほれぼれする桜色。優しい体の線と相まって春が来たなと眺めいる。対してオスは体が前後に引き締まり、桜色の上にうっすらと煤(すす)を刷いたような婚姻色が出るのですぐ分かる。

ところがだ。ここでわれわれはひとつの問題に直面する。産卵群ゆえ卵や精巣に栄養を集中させるこの時期、姿が良いにもかかわらず、身肉の方は秋や冬のタイと比べるといまひとつといわれてしまうのだ。しかし、道はある。身が痩せる度合いは、体が大きいほど大きいという法則がある。そして、頭の味や骨のダシは、まったく関係がない。というわけでこの時期、大きな頭の粗や30cmほどの小さめのタイに店頭で出合ったら即買い、ということでよろしかろう。

大きなタイの身はどうすればよいか。身が新鮮で硬いのであれば、削(そ)ぎ切った刺し身でもいいが、都会でお目にかかるのは、たいてい切り身。流水で素早く洗って水気をよく拭き、薄塩をして10分ほど置き、焼く前にもう一度塩を振る。これが二段塩。マダイの旨(うま)さを嚙(か)みしめることができる。薄塩まで同様に下処理して味噌(みそ)漬けやミリン醬油(しょうゆ)漬けも、たいへんよろしい。頭は焼くか煮つけるか。骨は潮(うしお)汁で食卓が完結する。

昨年来、海は高水温に低栄養。これまでにない変化の中で悲喜こもごも。多くの魚が激減したが、逆にマダイのように増えている魚もある。存分に賞味すべきチャンス到来、皆さまよろしく。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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