魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年6月8日
Column #016

初夏の日差しに跳ねるアジ旨し

山口県の「瀬付きあじ」

「アジは味なり、その味の美しきを言う也」と述べたのは何の古書であったか。まあことほど左様にこの魚の旨(うま)さといえば、百余年のいにしえから万人に認められているのであって、そこがすばらしい。

スーパーだろうがどこでも見かけるアジは、イワシ以上に大衆魚中の大衆魚。はたしてそれほどに旨い魚なのであろうか、期待は高まる。

旬の話をしよう。一年中獲(と)れる魚ではあるが、アジといえば初夏、山に新緑が萌(も)える頃、ピチピチ跳ねるその姿と、そのはじけんばかりの透明感のある身はこの季節の気候風土とぴったり重なる。ただし、この時期のアジはせいぜい20cmほどの小アジの旬なのだ。もっと小さくてもいい。10cmほどのやつも面倒がらずに刺し身にこしらえると、たまらなく旨い。生だけではない。こんがり焼いて玉ねぎや唐辛子を刻んだ甘酢にジュッと漬け置き嚙(か)みしめれば、疲れた夏の朝などには救われる思いがするものだ。

そして秋来たりなば冬、そして早春。こんどは中から、大型のアジが脂と筋肉を蓄えて、じっくり味わうアジとなる。つまりもうおわかりですね。産卵期が初夏ゆえに卵に栄養を奪われない小型がいいのがこの時期。そして産卵後の回復を経て寒さに耐えて旨くなるのが冬、という旬のしくみ、お忘れなく。

そう。旬とは、自然界の営みそのものにほかならない。

一般的なマアジには実は2つのタイプがある。「黄アジ」と「黒アジ」だ。黄は平たく背はオリーブ色で尾がレモン色。肉質が白身に近く上品な味で、すっきりした脂を乗せる。黒は背が黒くスマートで尾が黒みがかり、肉は赤身に近く味は濃く、その脂は青ザカナの香りが豊か。ブランドアジは希少な黄であって、安くて庶民的なのは大量に獲れる黒なのだが、2つのDNAが同じだというのだから、これまた自然界の妙としか言いようのない深い謎だ。

いずれのアジにせよ、旨いことには変わりない。千葉房州の“アジの三段活用”といえば、おろし身を味噌(みそ)と薬味で刻み和(あ)えてナメロウ。これを大葉に塗って焼けばサンガ。氷水に溶かして味を調えれば水ナマス。態(たい)が変われば呼び名も風味も変わる、旨さ変わらぬ変化自在のアジなのだ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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