魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年7月6日
Column #017

味濃くたくましく、トビウオは飛ぶ

鹿児島県の「トッピー(トビウオ)」(全国漁業協同組合連合会提供)

「トビウオは本当に飛ぶのか?」。はい、飛びます飛びます。ただし、はばたくのではなく、水面すれすれを全力で泳ぎつつ尾びれを激しくかいて助走をつけたのち、大きく張った胸鰭(むなびれ)を広げて水から飛び出して空中を“滑空”するというのが正解。シイラやマグロなど大型魚に追いかけられて、他の小魚たちは水中を逃げまどい食われるだけなのに、この魚だけがなぜに空中へと飛び出し脱出するに至ったのか。不思議だらけの自然界なので詮索はしない。

その体色は見るからに青ザカナであって、生時の背は紺碧(こんぺき)に青く、腹は銀白。鳥から見れば海に同化し、下から見上げれば光る海面に同化する自己防衛の装いだ。飛ぶための胸鰭は体並みに長く、広げれば翼のよう。とにかく飛ばねばならぬゆえ、筋肉をしっかり、かつスリムに蓄えなければならないし、無駄な脂肪をつけてはならないアスリート。これがトビウオの宿命であり、そのことがこの魚の味わいにも直結している。

いわゆる高蛋白(たんぱく)低脂肪とは、この魚のためにあるような言葉で、まず味が濃い。肉の味しっかり、ダシ力きっちりが最大の魅力。脂で旨(うま)さを測る当世の尺度とはかけ離れているが、じっくり嚙(か)みしめたときの強い旨味は他の魚をもって代えがたし。

鮮度が良ければショウガや七味醬油(じょうゆ)で刺し身。獲(と)れてすぐに生で食っても、ちゃんと個性の味がある。これも他の多くの魚とちがう。筋肉質で脂がないから、焼いて干せば鍛え抜かれた身から出るそのだしは強靱(きょうじん)。鰹節(かつおぶし)のように前面に出はしないものの、野太い旨味で素材を支え、その力は畜肉にだって負けやしない。世界中の暖かい海流に身を任せて北上し、沖縄から千葉沖、日本海の能登半島を越えたあたりまで獲れる。小さい種類2種はツクシとホソと呼び分け、30cmを超えるような大きい種類はハマトビ。総称して「あご」という。夜間は光に集まる習性があるので、山陰地方では船をゆっくり進めながら灯(あか)りを焚(た)いて、まぶしさにボーっとしているトビウオをたも網で掬(すく)い獲る「あご掬い」なる伝統漁法が、今は島根半島の観光的季節の風物となっている。その場で切って口に運べばまことに楽しくかつ美味(おい)しい。いちど経験したならば、夏の一夜の光に浮かぶ情景は一幕のドラマ。一生忘れないことだろう。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。島根県出雲市出身。52歳。

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