魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2018年8月31日
Column #019

天高くカマス肥ゆる秋到来

神奈川県の「江の島カマス」(全国漁業協同組合連合会提供)

昔から漁師の業界では「カマス一匹、底千尾」と言われ、これは一匹釣れたらその下の海底には大量のカマスが群れているという漁場発見の目安である。片や庶民は「カマスの焼き食い、飯一升」と言い伝えております。カマスを焼き食いながら飯を食うと、あまりの旨(うま)さに米を一升もたいらげちまう、というたとえなわけ。いずれもいささか大げさではあるが、なんだかカマスって凄(すご)そうだ、という感じは伝わってくる。

とはいえ、誇大とも思える伝聞ほどに知名度が高いかといえば、大衆的なアジ、サバ、イワシ、サンマ、サケなんかに比べれば、一年中並ぶ魚ではないこともあってか少し日常の暮らしからは離れているのかもしれない中級魚。目に触れる機会も一般的なスーパーで見るほどではないというのが、ちと残念。

筒形の体の先の、とんがった口を開けば鋭い歯がずらりと並び、この歯で素早く小魚を捕らえて急速に成長し、ずんずんと旨くなってゆく。カマスとひと口に言っても、夏に大量に獲れる背の青っぽい小型のカマスはオオメカマスないしヤマトカマス。これらは総じてミズカマスと呼ばれ、肉に旨味はあるけれど水っぽくて鮮度落ちが早いのだが、安いのだからありがたい。丸干しにして焼いたり、骨をはずして開き、フライにしたりするにはピッタンコの総菜魚。大皿に大量に盛って家族で食い進む夏らしいサッパリ味は、大人は辛子(からし)醬油(じょうゆ)、子供はウスターソースがよろしかろう。

秋の声とともに獲れ出すアカカマスは体長40センチを超え、ニンジンほどの太さに育つ。これは高級魚の部類といってよい。新鮮なものは刺し身や酢締めで味わうのもいいが、腹から開いてひと塩し、秋風に一夜干ししたのを炭火でじっくり焼き上げる。これに勝るものはあるまい。

香り高い上品な脂もさることながら、むしり取った身を口中に嚙(か)みしめると、きしりと締まった身肉の繊維が歯に絡まり、食い進むほどに味わいが変化する上品な醍醐味(だいごみ)。そこに、そうだ、炊き立ての米を嚙み合わせれば、なるほど古人の言はけして大げさではないのだと腑(ふ)に落ちることだろう。途中でちょいと醬油を垂らすのも、ますますカマスの味を深みへと誘う。どうだいこれは。すこしばかり高くても、食ってみなさい、ぶっとい秋のカマスをね。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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