魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2019年3月1日
Column #025

春が来たよとワカメは誘う

岩手のわかめ(全国漁業協同組合連合会提供)

ワカメはみんなが知っている。では聞こう。ワカメがどこにどのように生えているか知ってるかい?厚いのやら薄いのやらあって食感も味も違うのはなぜ?「メカブ」というタワシみたいな塊もワカメだというけれど、あれは何?

ワカメは〝海の野菜〟とはいうけれど、陸の野菜のように一年中できるわけではない。休眠していた胞子が芽吹くのは冬の終わり。陸から海に注ぐ栄養を吸って瞬く間に大きくなり、最大で2mにも育つ。中心の茎の部分から広がる葉の横幅も1m以上になり潮になびく。茎を支えるのは岩や岸壁につかまる根であるが、ここから栄養を吸っているわけではない。体全体から吸収する仕組みとなっており、胞子の時からロープに付けておけば、養殖もできるというわけ。われわれが食うのは葉と茎。そして根っこ付近の茎がひだ状に変形してできる「ネカブ」あるいは「メカブ」ともいうこれは、来年のための胞子を蓄える貯蔵庫であって、茹(ゆ)でて刻めばトロトロの〝メカブ〟となる。飯にかけて旨(うま)い。

潮通しの良い場所に群生するが、ワカメ一種のみにもかかわらず、栄養や海流など環境によって葉の大きさや厚さ、ネカブの形などが変化し、当然、味も違ってくる。例えば、肉厚の東北のワカメは嚙(か)み応えがあり、味噌(みそ)汁や酢の物に適しているのに対し、東京湾から西側では極薄ゆえにダシ絡みがいいため、鍋やしゃぶしゃぶなどに最高。各地各所に特有のワカメがあり、味わいや料理の違いがおもしろい。海では茶色だが、湯に浸けたとたんに濃緑色に変身して見慣れたいつものワカメとなる。塩漬けにしたり干したりして保存もできるので、水に戻して一年中使えるが、生の味わいには勝てまい。

春はもうすぐ。海の中では雪解け水を吸って、ゆらゆらすくすくワカメが育ち、食べてごらんと待っている。季節は短い、旬は今でしょ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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