魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2019年12月6日
Column #035

変わりゆく海のニシン、永遠なれ

「石狩湾のニシン」(北海道漁業協同組合連合会提供)

正月に欠かせぬカズノコの親がニシンであり、あまりにも大量に卵を産むので誰が親だかわからないといわれていたほどである。かつて北海道では春になるとニシンの大群が沿岸各地に押し寄せ、雄が放出する精子で海は白く濁り、これを北の人々は“群来(くき)”と呼んだ。こうした光景は有史以来絶えることなく繰り返され、明治の最盛期で年間100万トンというニシン漁に沸きかえった浜の景気は“ニシン御殿”を建てた。

それも今や過去のこと。遺跡となった御殿は文化財となり観光資源に。昭和20年代には幻の魚と呼ばれてニシン漁は消えたのである。原因については諸説あり、獲(と)り過ぎとの反省もあるし、北海道の開拓に伴う森林伐採が影響したとの推論をまとめた「ニシン山に登る」といった興味深い書物も残っている。

それから60余年、平成2年には2千トンまで落ち込んだ漁獲量が持ち直し、今は1万トン程度に回復した。けっして油断はできないが、漁師や研究者の努力、そして種を絶やすことのない自然界の包容力による天人協働の恩恵といえよう。

小さいニシンを酢締めに保存しておき、薄切りのタマネギや粒胡椒(こしょう)とともに供すれば格調高い北欧の料理になるが、日本では、焼いた「塩ニシン」、そして腹から取り出した卵巣を塩漬けした「カズノコ」、そして卵を抜いた後に頭と内臓を除いて干し上げた「身欠きニシン」として食す。かつては魚油を絞ったり、その粕を肥料にしたりと、隅々まで無駄なく利用してきたのは日本のお家芸。

身欠きニシンを米のとぎ汁に漬け、じっくり一昼夜かけて戻したのをナスやしし唐と煮れば素敵な風味のオカズになる。甘辛く煮含めたのを焼き温めて独酌で向き合うのは年越しの楽しみだ。ニシンが昆布(こんぶ)に産み付けた卵を昆布ごと食うのが「子持ち昆布」だが、カズノコと並んで噛(か)む音を賞味する文化が、資源を絶やさぬことを祈らずにはいられない。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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