開場から1年を迎えた豊洲市場で、競りの前に並べられたマグロを見て回る男性=11日早朝、東京都江東区
マグロは南極と北極を除く世界の海をビュンビュン泳ぎまわっている“高度回遊魚”。サバに近い仲間であるから、尾ビレと背ビレ、尻ビレの間に小さいヒレがたくさん並んでいるのが特徴だけれど、いずれもその肉太く、味濃く、滋味かつ栄養に富んだ、今も昔もわれわれ人間にとって有り難い魚であることは、縄文時代の遺跡からその骨が発掘されていることからもうかがえる。
のみならず、クロマグロなどはその体躯(たいく)300キロを超える高級品に育ち、毎年日本の新年市場で何千万やらとご祝儀相場が騒がれる事態となっている。年の瀬となれば、そのお宝マグロを追う漁師たちの特番が組まれるのもここ数年の文化となった。こんな現象が起こるのも、日本ならではのことだが、いささか過熱気味ではある。獲り過ぎれば資源は減るが、ほんの2年も我慢すれば、成長の早い彼らは瞬く間に回復する。増減を観察し、絶やさぬよう柔軟に食えばよいだけのこと。世間で騒ぐほどのことではない。
あらためてマグロを眺めてみると、北半球に棲(す)む先述のクロマグロのほか、南半球のミナミマグロ、広く棲むのがメバチとキハダ、そしてビンナガとコシナガ。これらマグロを生で食うのは今や日本だけでなく、「SUSHI」の伝播(でんぱ)拡散に伴い世界中に広がりつつある。1頭でたっぷりの肉がとれ、部位によって異なる味わいが楽しめ、生のままでも切れば食える肉。高級品もあるが庶民価格のものもある。つまりマグロの“汎用(はんよう)性”は、水産物の中でも最強クラスであって、それがこの魚に世界が熱い視線を注ぐ理由でもあろう。
食い方も自由自在。それぞれの文化嗜好(しこう)に応じて食えばよい。わが国とて醤油(しょうゆ)煮ワサビだけではない。柵取りしたマグロの肉に粗塩をまぶして10分置き、洗い、水気を拭いた「塩マグロ」は、それだけで野菜や薬味と合わせて旨(うま)い。塩マグロを酢で締めれば「締めマグロ」になるし、野菜炒めにしても塩気とダシが野菜をすばらしく旨く仕立ててくれる。
ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。