魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2020年2月14日
Column #037

牡蠣は黙って世に尽くす

広島県の「広島かき」(全国漁業協同組合連合会提供)

オイスターバーと称す洒落(しゃれ)た店が巷(ちまた)に流行(はや)り、蓋をあけた牡蠣(カキ)を氷上に乗せ、フォークでその身を口に運んだ客は目を閉じうなずきながら悦に入る、というスタイル。居ながらにして日本各地のみならず世界の牡蠣が味わえるのも魅力だ。

しかし、そもそも、そのようにお高いものであったろうか牡蠣という存在は。港に行って、波寄る海面下を眺めてごらんなさい。岩だか貝だか見定めにくいものが一面にくっついているでしょう。これが牡蠣。東西南北津々浦々、岩や岸壁に張り付いて、海の栄養を吸いながらスクスク育つ二枚貝である。

近代は養殖牡蠣の産地といえば広島が有名だが、最近は瀬戸内海各地をはじめ、宮城、北海道へと広がり、寒くなれば、牡蠣鍋でもやるかというのがニッポンの風情。庶民の家のぬくもりとともに息づく、それが牡蠣だ。縄文時代の拾い食いは、現代では養殖となった。ロープにホタテの貝殻を蛇腹状に連ね、筏(いかだ)から何本も海に吊(つ)るして種をつけ、大きくなったらばらして売る。この「垂下式」という技術によって全国の養殖牡蠣の量産が実現したのだが、この大した発想を生んだのが実は沖縄だと知って驚かぬ人はおるまい。大宜味村(おおぎみそん)におられた宮城新昌氏その人の「牡蠣には滋養があるので日本国民に豆腐の如く食わせたい」との切なる願いが数十年を経て今、全世界で実っている。

エネルギーの源グリコーゲンに富み、各種ミネラル、活力を増すタウリン、そして味覚形成に欠かせない亜鉛まで含む。そればかりか1時間に一升瓶2本も海水を濾(ろ)過(か)して海の浄化にも一役買っている、人間にとって有(あ)り難(がた)さも極みの貝。それがひたすら沈黙して海で暮らしている奥ゆかしさ。どうだ、頭が下がるであろう。

牡蠣の味には4つの要素がある。白く膨れた部分の濃厚さ、貝柱の甘味、ヒダヒダの香りと渋み、そして海水の塩味。最後の決め手は海の味。諸君、海を汚してはいけないよ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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