魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2020年4月10日
Column #039

青く切ない光は初夏の味

富山県の「富山湾のホタルイカ」(全国漁業協同組合連合会)

蛍烏賊は“ホタルイカ”と読む。英語では「ファイア・フライ(ホタル) スキッド(イカ)」だから、洋の東西を問わず人の連想は同じとみえる。呼び名は、このイカが光の届かぬ深海の住人であることに起因する。闇で光る発光器という組織を持ち、それにて仲間を認識したり、敵の目をくらましたり、いろいろするらしいのだが、刺激を受けると青白く光り、網を上げるときに絡まり腕を振り回す様はチカチカと闇夜に明滅し、小さい命を主張している。

春も終わりに近づく頃、産卵期を迎えたホタルイカは夜になると深い海から大群をなして浮かび上がり、網にも入るが、浜にも打ち上げられて身を投げる。切なさとともに思い出されるその味覚は、いよいよ初夏到来のお約束だ。

体は小さく、大きいものでも10センチほど。最盛期に魚屋の店頭で行儀よくトレイに並んだその生姿は、キョロッとしたガラスのような目玉に透明感のある飴(あめ)色の体がつややかに息づく。美しすぎてつい生でそのまま食いたくなるが、ご用心。時々アニサキスという胃痛の原因となる虫がいること、覚えておいていただきたい。

でも大丈夫。このイカは、大量に獲(と)れる上に鮮度落ちが早いので、産地で水揚げ後、すぐさま海水で茹(ゆ)でられることがほとんどなので安心。しかもこれが凄(すさ)まじく旨(うま)い。茹で上がり縮んでぷっくらと膨れた胴の中には、たっぷりの肝が詰まっている。産卵期ゆえにメスであれば卵もぎっしり入るだろう。口の中に放(ほう)り込みプチリと噛(か)めば、音がするかの如(ごと)く、薄い身が割れ弾け、濃厚な肝やらが口中に広がり、そのまま噛(か)み進めば軽妙な歯応えのある身や足と混ざり合って、ジワーッと喉の奥にコクを残して消えてゆく。そうそう。これがホタルの旨さ。

なんといっても茹でたてを食いたくば、富山から兵庫の各浜を季節に旅して訪ねればよかろう。観光漁船に乗ればホタルぶりも鑑賞できるかもしれない。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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