魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2020年7月31日
Column #043

今こそ知るべしイセエビの醍醐味

「千葉のイセエビ」(全国漁業協同組合連合会提供)

浜の市場の生け簀(いけす)の中で、長く雄々しい触角をかざし、赤銅色のいかめしい岩礁のような体躯(たいく)のイセエビを眺めていると、何やらめでたい気持ちになってくる。

エビの中では大きく育ち、大きいもので30センチ、1キロを超える。南方にはさらに大きいゴシキエビがいるけれど、赤黒い甲冑(かっちゅう)のようなイセエビにこそ、われわれの大和魂は惹(ひ)かれ、揺さぶられるのである。

日本人好みのエビなれど、日本海と瀬戸内海にはいない。主な産地は茨城県より南の太平洋側の沿岸。千葉、静岡、和歌山など、特に黒潮がぶつかる半島がある地域に集中している。

というのはこのエビ、南方の深場で孵化(ふか)すると、薄い透明フィルムのような10センチもあるフィロゾーマという幼生になって浮上、潮に乗り、岸近くの海藻が多いところに到達すると脱皮して、通称“ガラスエビ”といわれる2センチほどの稚エビとなって着底する。なるほど磯の海藻が多いところにイセエビは多い。

その生き様はまさに謎。不思議だらけのエビながら、その姿ゆえ新郎新婦の祝いの膳には茹(ゆ)で上げて真っ赤なイセエビが鎮座する「ハレ」のエビだ。そもそも大きなエビなので、尻尾に詰まった肉も大きい。刺し身、焼き、茹(ゆ)で、天ぷらなどいずれも弾力の強いエビ味をほおばる醍醐味(だいごみ)がある。

だが、かつてイセエビ漁に従事していた者としては「けっこう大味、飽きる味」と、あえて言わせてもらう。

そこでどのように食うかといえば、ダシが素晴らしいのでまず味噌(みそ)汁。ナス入れると旨味(うまみ)を吸って一層よろしい。次に煮つけ。小さめのを酒、醤油(しょうゆ)、みりん少々で煮ると、このエビの香りが立つ。身を食い、残り煮汁を冷やしておき、刻みネギを散らして食う素麺(そうめん)こそが、夏のエビ味の骨頂だ。

大きい奴は、身を観音開きに大きく切り開いて特大のフライにする。辛子醤油を垂らして食えば、快哉(かいさい)。新型コロナウイルスの被害で漁師も大変。安くて困っている。買って支えて歓(よろこ)び合おうではないか。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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