魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2022年8月19日
Column #068

物言わぬ岩牡蠣こじ開け、夏の力取り込む

旨さと滋養が身に染みる「岩牡蠣」

通常の牡蠣(かき)が浅い海の冬から春のものであるのに対し、夏に若干深いところで太る大型の牡蠣がいる。岩牡蠣だ。今般の生牡蠣ブームに乗っかって、今や夏とくれば岩牡蠣というくらいに“牡蠣っ食い”の垂涎(すいぜん)の的となっている。

かつて遠洋マグロ船に乗っていた頃、静岡・清水港からの出船は夏たけなわ。前日に準備を終えたら地元の居酒屋に飛び込んで、水揚げしたばかりの岩牡蠣をむいてもらいツルンと吸い込む。一粒で口いっぱいになって有無を言わせぬ大きなその身を、目を閉じモグモグと堪能するのが恒例の儀式であった。暑さに疲れた心身に、そして始まる半年の航海への慰労として、岩牡蠣の清々(すがすが)しき風味と滋養は、まことにふさわしく身に染みる、時季の旨さであった。

時は変わり、岩牡蠣の名が知れ渡り、昨今は養殖も増えた。本来冬のものであった真牡蠣が養殖によって春まで食えるようになったように、岩牡蠣が養殖によって夏を待たずして春に食えるようになったのは、賞味期間が長くなった半面、季節感が壊されたようで少し寂しい。何かを得れば何かを失う。その失うものを、得るものであがなえるのか、それは私たちの根底に、肉体と精神を育む上で何が大切なのかという絶対価値観を持っていなければ判断がつかない。などと思索してしまうのは、岩牡蠣をほおばったときの静かなつかの間が脳に与える作用ではないかと、僕は思う。

岩牡蠣はひとたび岩にへばりついたら大きくなるまでじっと暮らすので、殻の外側にはフジツボや海藻や、いろんな生物が付着し、養殖や掃除後でないかぎり、まさに岩そのもの。どこが貝やらその口やらは素人では分かるまい。慣れてくるとそこに“ハマムキ”なる道具の先端をあてがい、コキコキねじれば案外容易に殻が開く。上下の貝柱を切って取り出し流水で洗い、吸い込めばよい。酢醬油も、レモン汁も、少し唐辛子を振っても。その効能は、口に含めば分かるのだ。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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