魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2022年9月16日
Column #069

どっこい生きてる、魚と人の海だもの

海水温の上昇で北へと勢力を伸ばしているブリ

海の水温上昇、栄養不足、酸性化など、人間の文明とやらは、自分らの都合に合わせて利便を追求し続けた結果、自ら暮らす環境も棲(す)みにくく変えつつあるようだ。このような警鐘が鳴り始めたのはずいぶん昔のことで、以後30余年、浮き沈みはあっても何とかやれてきた、というのがわれわれの甘えの温床だったかもしれぬ。というのは、それまで緩やかに進んできた諸問題が、ここ5年間ほどで加速しているように感じるからだ。

太平洋のマグロ漁船で30年選手のベテラン漁労長が、過去に記しためたデータが役に立たんと嘆き始めたのが20年前。海の違和感は大海原から始まっていた。振り返りその頃の日本沿岸は、魚が減ったといわれつつも、今に比べたら雲泥の差で豊かだった。自然界のやせ我慢に依存したかりそめの豊かさに、持たねばならない危機感がまぎれてしまったのは不幸であったと、今なら言える。

予兆はあった。海水温の上昇により、サワラやブリなど多くの回遊魚が北に勢力を伸ばし、サケがどこかに行ってしまいブリが増えた。次いで定着性の魚の北上が始まり、たとえばかつての豊かな沖縄の海は奄美群島に移ってしまった。特に問題は、西と南の海であろう。魚が北に行ってしまえば、それ以上南からの補充はきかないからだ。海の生産力が落ちてしまった以上、政府には輸入に頼る日本の食を救うすべはなく、SDGsと叫んだところで人間の営みはどうしても変わらない。

となれば、その結果を受け止め、海と魚の今に寄り添い、大切に獲(と)り、食べ、生産と消費が互いに支え合っていくのが島国ニッポンの定め。小さな日常、あなたの中に息づく今できることを積み重ね、自分たちの暮らしと健康を自ら守らねばならない時代となった。やれマグロだサーモンだとえり好みせず、自然の変化に寄り添い、小さくなってしまったその恵みを隅々まで感じ暮らせるならば、海も魚も応えるだけの力はまだ残っているだろう。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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