魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2022年10月21日
Column #070

サケはめぐるよ、陸が育てた海の恵み

秋に戻ってくるサケは秋アジとも呼ばれる

養殖サーモンをはじめ輸入が増えたサケ類ではあるが、秋に獲(と)れる、これこそが正真正銘、国産のサケだ。他のサケと区別してシロザケともいう。サケは春に川の上流で卵がかえり、稚魚は海に下り、4年間ほど大海の旅に出る。大きくなったサケは自分の生まれた川、これを“母川(ぼせん)”というのだが、そこを目指して回帰し、川を上り、つがいとなって卵を産み、一生を終える。森林から滲(にじ)み出す栄養は海を養い稚魚を育て、親になって再び川に戻り、栄養を山に返す。この壮大な恵みの循環を担っている使徒こそ、サケなのだ。

サケにも実はさまざまなタイプがある。秋に戻ってくるのは上記の如(ごと)しで、秋ザケもしくは秋アジ(味)と呼ばれる。特に太って目が寄ったように見えるものをメジカと呼んで特別扱いしているが、もうひとつ、1万分の1の確率でしか獲れない秋のサケもいる。これは生まれ故郷が日本ではなくロシアのアムール川で、餌を食べている途中に日本の網に迷い込んだもの。卵や精巣に栄養を取られていないので小さくても脂乗りが良く、「鮭児(ケイジ)」と呼ばれ、値段は数万円という希少価値だ。

一方、川を下った稚魚で餌の多い日本沖合に居残り育つ群れがある。これは春に獲れるので北海道では時シラズ、時ザケ、三陸ではオオメマスなどと呼び、長旅の疲れがないので味が良い。種類が同じであっても、獲れる時期、質、特徴によってこれほどに呼び分けられるのは、いかにこの魚がわれわれ日本人の愛着と郷愁を一身に集めているか、推して知るべし。

さらに、獲れたサケのエラと内臓を抜き塩漬けにしたものを“新巻き”もしくは新巻きサケというが、昔ながらの製法で重ねて作られたものは熟成を伴い特に味が良く、山漬けと呼ばれている。新潟の村上では、川に上ったサケを堅く干し、これを用いた数十種類もの料理が伝わっている。紙面は尽きた。次回、さらに掘り下げてみよう。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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