魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

SAKANA & JAPAN PROJECT
Facebook Twitter Instagram

ウエカツ流サカナ道一直線

2023年2月17日
Column #074

締め方で味が変わる事実の謎

釣り上げたアジを神経締めにする筆者(YouTubeより)

魚の旨(うま)さを語るとき、活締めがいいとか、氷だけ当てて寝かせたほうが好きだとか、居酒屋の独り呑(の)みの耳には魚好きたちの喧噪(けんそう)がいろいろ聞こえてくる。今やタクシーの運転手さんまで「神経締めっておいしいらしいですな」などと業界用語を口にするくらい、締め方(=殺し方)の認知度が上がったばかりか、流派が分かれ、血抜きを最上とする考え方や、さらには神経締めには意味がないといった風評までまことしやかに流れ、魚の締め方をめぐってどれが最適なのか、一般庶民を惑わせる混迷の時代となった感がある。

前出の「神経締め」とは、魚を殺した後に、背骨に通る神経を壊す技術のことなのだが、そもそもそれで魚の何が変わるというのだろうか。今を遡(さかのぼ)ること約30年、瀬戸内海一帯の資源管理や漁業をお世話する機関に所属していたある日のこと。兵庫県の明石でひと切れのタイの刺し身を口にして目を瞠(みは)った。タイといえば言わずとも白身。例えば同じ白身のヒラメに比べていささか落ちる程度の認識でしかなかったのだが、箸に挟まれたその切片は、あめ色に透き通り、断面が艶やかに光り、歯を入れるとやわらかな弾力を返したのち、咀嚼(そしゃく)とともに砕け、散り、甘い香りと旨味の余韻を残して喉に消えていったのであった。これはと、店の主人に尋ねると、これが明石のタイなんやと言う。こんなタイが獲(と)れる産地があるのかと、後日訪ねていった先がこのタイの出どころである明石浦漁協だ。当時の小松常務いわく、産地もあるやろうけど締め方やで、ということで、“明石締め”に出合ったのであった。

この時点で既に40年前にはやっていたというので、その歴史は70年以上ということになる。かつては出入りの仲買さんがやっていたことを漁協の職員が学び継承して今日に至るというが、実見すれば一目瞭然、ここで働く漁協の職員は、一子相伝かのごとく技術を習得し、魚の価値を高めることに余念がない。そのしくみは何か。次回に続く。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

Page Top