魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2023年4月21日
Column #076

イワシは海の米、恩恵限りなし

ツヤツヤピンピンの「入梅イワシ」

かつてイワシだけは尽きることはないと言われ続け、確かに全国で無尽蔵に獲れ続けてきたマイワシが忽然(こつぜん)と姿を消したのが遡(さかのぼ)ること20余年前のこと。獲れすぎて建てた魚粉工場が次々と倒産し、イワシバブルが終わったのだった。以来、〝幻の魚〟などともいわれて今、時を経てイワシ復活の兆しが見えている。

自然界の営み-特にアジ、サバ、イワシの総じて〝浮き魚〟と呼ばれる大衆魚たち-は、何かが増えれば何かが減る。そういう仕組みにできている。そしてイワシは、卵から稚魚、親になってなお、いろんな生き物に食べられて食物連鎖の底辺を支える要であって、まさに「海の米」である。

イワシはサイズによっておおまかに小羽、中羽、大羽と分けられる。春を迎えて水ぬるみ、餌(えさ)となるプランクトンが増えてくるとイワシは肥え始める。特に、梅雨の雨が海にもたらす栄養は、いやがおうにもイワシに脂をのせるので〝入梅イワシ〟と、イワシめる。この脂こそが人類が求める究極の脂、オメガ3。血液サラサラ、言語知能向上の秘薬なのだ。

今獲れているのは、まだ全国的とはいかないが、日本海の西の鳥取から石川にかけて、そして時々、太平洋。魚偏に弱いと書くイワシだが、現代の冷蔵輸送技術によって、都会でもツヤツヤピンピンのイワシが手に入る時代となった。煮る、焼く、揚げるのいずれにも寄り添い、イワシならではの滋味な個性を味わえるうえ、新鮮な刺し身は皮目に雪をべったり塗りつけたような脂肪層をまとい、しばし見惚れるほどの美しさだ。というわけで、水温上昇だ、乱獲だ、と評論される海の詳細は分からぬが、イワシが増えているのは心の底からありがたい。過去の轍(てつ)を踏まぬよう、獲れ過ぎだからとぞんざいに扱わず、イワシの滋養と恩恵を大切に生きていきたいと、久々の大羽イワシを嚙みしめながら、わたくしは思うのである。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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