魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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ウエカツ流サカナ道一直線

2024年8月16日
Column #092

威風堂々としたマトウダイ 異形にそぐわぬ品の良さ

マトウダイの黒い紋所は鮮度の証し

マトウダイ。前回のアマダイに続き、またしてもタイがつく“あやかりダイ”の登場だが、およそタイのイメージから遠いことは一目瞭然。なぜにこれにタイの名をつけたかと思うであろう。

盆皿のような平たい体に不釣り合いに長い背びれ、口先から目までの距離が長すぎる異形。さらに口は、開くと前方に展開して大きく伸び、これで小魚をシュポッと吸い込んで食っている。そして何といっても特徴的なのは、体の中央の白く縁どられた五百円玉くらいの紋模様であろう。だから地方によってはこれを「紋ダイ」あるいは「的ダイ」とも呼ぶが、間延びした馬づらをもって「馬頭(ばとう)ダイ」というのがピタリと落ち着く。なんでも西洋ではこの紋が、キリスト教の偉人が触った跡だというので「サンピエトロ」といって尊んでいると聞くが、八百万(やおよろず)の神おわす我々には関係なきことである。

市場で見かけるときは全体が灰色でトレードマークの紋もぼやけているが、これは鮮度がいささか落ちたもの。生時(せいじ)のそれは、見違えるような鮮やかさというより、雅(みやび)やかなのだ。全身オリーブ色で肌には古代出雲の叢雲(むらくも)文様が浮かび、真ん中にくっきりと黒い紋所。生きているときには全てのヒレを大きく張り、浮袋を震わせグウグウ鳴いて、囚(とら)われているのに威張ってみせる。さらに、さばいていくと、通常血合い骨を境に2つに分かれるおろし身が、どういうわけか3枚に分割されるという「ハテ?」が何かと多い魚だ。

その身は白にて刺し身の味も上品、脂気は少ないので油分を加えた料理が向いている。が、ご注意あれ。比較的水分が多いので、加熱がすぎると脱水し、パサつく仕上がりになってしまう。なので油やダシの中で緩やかに煮るか、すばやく揚げちまうのが吉。豪州では最上級のフリットになるし、欧州では野菜とワイン煮もよい。我が家では格子に切れ目を入れて塩焼きした熱々にバターやオリーブ油を塗りかけると、実は洒落た魚なのだと目をみはる。

上田 勝彦氏
うえだ・かつひこ

ウエカツ水産代表。昭和39年生まれ、島根県出雲市出身。長崎大水産学部卒。大学を休学して漁師に。平成3年、水産庁入庁。27年に退職。「魚の伝道師」として料理とトークを通じて魚食の復興に取り組む。

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