コゾクラの煮付け(日本料理 銭屋提供)
お盆に入り例年であれば多くの人が帰省や行楽に出かけますが、今年は新型コロナウイルスの影響で、いつもとは違う夏となっています。少年時代に、地元の漁師さんに頼んで地引き網漁を体験したという夏の思い出があります。みんなで網を引っ張ると、アジやサバなど海の幸がたくさん獲(と)れてうれしかったことを覚えています。いつもとは違う夏でも、子供たちに自然の豊かさに触れる機会をつくってほしいと願っています。
そんな夏の記憶とともに思い浮かぶ金沢の食材が「コゾクラ」という魚です。ほかの地域では聞きなれないかもしれませんが、実は体長15センチくらいまでの若いブリのことです。出世魚のブリは成長に伴って名称が変わり、地方によっても呼び方はさまざま。金沢ではコゾクラが成長し、30センチくらいまでをフクラギと呼び、さらに大きくなるとガンド、そして10キロ以上に育ちブリになります。
北陸では脂ののった寒ブリが冬の味覚として有名ですが、この季節は脂が少なくさっぱりした味わいのコゾクラやフクラギが好まれます。価格も手ごろで、食卓に欠かせません。コゾクラは身が小さいので丸ごと煮付けにします。
しょう油で味付けした出汁(だし)に入れ、ショウガと一緒にさっと煮炊き、冷まして食べると淡いうま味が出て、そうめんのお供にもぴったり。うだるような暑さの日にも、ひとときの爽やかさをもたらしてくれる一皿に仕上がります。
お盆が明けると朝晩は徐々に涼しくなり、秋の気配が漂ってきます。コゾクラのような夏の食材を料理して名残を惜しむのも、四季を大切にする和食の楽しみではないでしょうか。
昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。