魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2020年9月11日
Column #012

不易流行の思い示す小椀鮨

イクラとウニ、和牛のトロとウニなどの小椀に汁物を添えた「録 ROKU by ZENIYA」のセットメニュー(OPENSAUCE提供)

新型コロナウイルスの感染拡大が国内で顕著になってから半年がたちました。いまだ飲食業界は苦境に立たされていますが、最近はより大きな視点で和食文化の将来を考えています。個人的にも人生100年の半分の節目を過ぎ、料理人として次の50年に思いを致しています。和食文化は継承しても、いまの姿のまま残るとは限りません。社会環境に合わせ、新たな業態や技術を積極的に取り入れる姿勢が必要です。

その考えを具現化したのが、8月に金沢駅西口の複合施設内にオープンしたフードホール「FOODCLUB」です。私が経営に参画するベンチャーが企画・運営し、「日本料理 銭屋」は新業態「録 ROKU by ZENIYA」を監修しています。

子供からお年寄りまで立ち寄る場所柄を考え、メニューは小さなお椀(わん)に入れた鮨(すし)のみ。カジュアルな雰囲気ですが、本マグロのたたきやホタテの漬けなど厳選した食材を堪能する一椀から、炙(あぶ)ったノドグロとウニというネタの妙を楽しめるメニューまで本格派の味を提供します。一椀から注文でき、食事はもちろん、小腹を満たしたり、酒のさかなにしたりと自由なスタイルの鮨屋を目指しました。

運営でも感染症対策や利便性に配慮し、新たな飲食業の形を模索しています。店内にメニュー表は置かず、お客さまは自らのモバイル端末で専用サイトにアクセスして注文。会計はクレジット決済で完全キャッシュレスにして、非接触の環境をつくるとともに業務の効率化を図っています。

日本が長い歳月をかけて育んできた料理や伝統工芸などの文化が廃れるとは思いません。しかし、俳諧の世界に「不易流行」という言葉があるように、常に変化することをためらわず、受け入れることが、結果として本質を守ることにつながるのではないでしょうか。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

昭和45年開業の「日本料理 銭屋」の2代目主人。京都吉兆で修業の後、家業を継ぎ、平成28年に「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。29年に農林水産省の「日本食普及の親善大使」に任命された。

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