魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2020年11月6日
Column #014

ズワイガニ漁解禁日の誤解

石川県ではズワイガニ漁は11月6日に解禁される

今年の松茸(まつたけ)は、天候条件がいま一つだったのか、立ち上がりの時期は国産物の収穫量がとても少なく、一体どうなるのだろうと心配しておりました。ところが、10月中旬に近づくと堰(せき)を切ったように市場にたくさん出回り始め、国産物も輸入物も存分に仕入れることができました。今思えば、あの頃が私にとって秋の始まりだったのかもしれません。

松茸のように自然の成り行きでシーズンが始まるものもあれば、規則によって始まる日程が決められているものもあります。地域によって日程は異なりますが、石川県で、きょう6日から始まったカニ漁がまさにそれです。これはいわゆるズワイガニ漁のことですが、この解禁日に関して勘違いされるお客さまが毎年いらっしゃいます。

6日になった瞬間に解禁され、漁師たちは一斉に網を下ろし、そのシーズンの漁が始まるのですが、実際に競りにかけられるのは翌日朝の7日です。つまり、われわれが初物のカニを食べられるのは7日からなのです。ところが、毎年何人かのお客さまはカニを食べる気満々で6日に銭屋にいらっしゃって、ようやくその事実を知り、がっかりされることがしばしば。ですから、「カニをご用意できるのは7日からですよ」と、ご予約の際には必ず付け加えてご案内しておりました。

古事記にもカニが獲(と)れたと記述がありますが、それがズワイガニかどうかは定かではありません。ズワイガニと呼ばれるようになったのは江戸の中期、吉宗将軍の頃といわれております。なんでも、その頃は鰈(かれい)のついでに獲れていたとか。どうも厳密なカニ漁ではなかったようですね。

その後、近代になってズワイガニのおいしさに人々は心奪われ、そのため獲りに獲って現代に至り、今や禁漁期間を設定して、その生態を保護しなければなりません。古くから伝わるこの味を後世に残すための努力が求められています。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。

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